let there be light
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curtain call
- 2012/01/30 (Mon) |
- (創作)魔恋の六騎士 |
- CM(3) |
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- ▲Top
アンジェリーク 魔恋の六騎士(キーファー×テレサ)
だいぶ捏造設定がありますので、お気をつけてご覧ください…。
curtain call
客席からわっと歓声が上がり、サラは舞台裏でにんまりと笑った。
今日も団員たちの曲芸は絶好調で、お客をじゅうぶんに楽しませているようだ。この街で公演を始めて一週間になるが、交通の便がよく、旅人の往来も多い。そのせいか文化的な気風が根付いているらしく、サラの夫が団長をしている一座のテント小屋に、観客が絶えることはなかった。
「もうすぐ出番だよ、テレサ」
楽屋の片隅に、メイクのための小さな鏡台がある。その前の椅子に若い女性が座って、じっと鏡の中の自分を見つめていた。
「…はい」
サラの呼びかけに反応して振り向いた女性が、穏やかに微笑む。
少しくせのある赤毛が、肩先でふわりと揺れた。
彼女の笑みは、冬日の射す薄氷のようだ。清々しくきらめいていて―――どこか哀しげで、今にも割れて砕けそうなあやうさをたたえている。
歌姫のテレサが一座に入ったのは、三年ほど前のことだ。
ある街道沿いの街を移動していた時に、ふとした偶然で彼女が歌う場面に出会った。
歌っていたのは、故郷に伝わるものだという古い民謡。素朴だが美しい旋律が、透明感のある歌声と相まって、何ともいえない味わいがあった。
興味を覚えた団長が一座に入らないかと誘い、以来、一緒に旅をしている。
口数が少なく大人しい娘だが、歌だけでなく炊事や洗濯も得意で、裏方の仕事にもこまめに働いてくれる。40歳を過ぎたサラは、実の娘のような愛おしさも感じていた。
「相変わらず地味だね。年頃の娘が舞台に立つのだから、もっと着飾ったらいいのに」
テレサの衣装はシンプルな型の白いドレスで、装飾はなく、化粧すらしていない。
「ごめんなさい、興味がないんです」
そっけなく言うと、テレサは椅子から立ち上がった。
「たまには紅くらい、差してごらん。気分も明るくなるよ」
「でも…」
見てくれる人もいないし、というようなことをテレサが曖昧に言う。サラはもどかしげに頭を振った。
「勿体ないね。あんたはちょっと愛嬌が足りないけど、元が良いんだから、着飾ればもっと綺麗になるよ」
「サラみたいに?」
「そう、あたしの若い頃みたいに、ね」
テレサがサラの口癖を茶化すと、たっぷりと肉の付いた体をゆすって、サラが笑った。
「さあ、もうすぐフィナーレだ、歌っておいで」
「はい」
さっきよりも温かみの増した微笑で、テレサが応じる。舞台に体を向けて、軽く深呼吸すると―――笑みは、もう消えていた。
そこにいるのは、冷たく哀しげな、氷の歌姫。
サラはその細い背中を、暗然とした思いで見つめた。
普段もあまり笑うことはないが、舞台で歌うときは、むしろ苦しそうな表情になる。痛々しいほどに脆く、儚く。
そんな愁いが、歌声にいっそう趣を与えていて、彼女の人気が増すのは皮肉なことかもしれない。
(男に捨てられたのか…あるいは、死に別れたのか)
自分のことを話そうとはせず、まるで世捨て人のようにひっそりと生きる事情を、なんとなくだが、女の勘でそう感じていた。
捨てられたのなら、相手の男はよほどの馬鹿だと思うし、死んだのなら―――忘れられないほどの、いい男だったのだろう。
歌声と美しい容姿に魅せられ、言い寄る男も少なくない。しかし、テレサはそれをすべてはねつけていた。
きっと彼女の歌は、失った誰かに捧げるためのものなのだ。
テレサが秘めた傷を癒し、つらい旅を終える日が来ることを、サラは願ってやまなかった。
舞台はまもなくクライマックスを迎える。
トランペットやオルガンが軽快な音楽を奏で、曲に合わせて軽業師たちが舞台を跳ね回り―――ひときわ高く音が響いた瞬間、小屋の明かりが唐突に消えた。
薄暗闇の中、楽屋へ引き上げる仲間とすれ違いながら、テレサは慣れた足取りで舞台の中央に向かう。裏方が再びランプに火を入れると、板張りの床に座るテレサの姿が照らされた。
賑やかなステージの最後を、もの悲しい歌声でしっとりと締めくくる。緩急がはっきりした団長の演出は、観客に評判が良かった。
突然の場面の展開で静まりかえったテント小屋に、歌姫の透き通る声が響く。
レツェ・ルタ・ルーシャ。
お元気ですか?
また会いましょう。
伴奏はない。初めの頃はオルガン弾きが伴奏していたのだが、情感を表現し切れないと匙を投げられ、それからは独りで歌っていた。
虚ろな瞳は天井に向けられ、客席を見ることはけしてない。
―――もう幾度、こうして歌ったことだろう。
その度に客席へ目を配り、懐かしい人たちの姿を探した。離れてしまった弟、尊敬する騎士団長たちと、彼らが崇拝してやまない若き主。
そして…彼女が命がけで愛した、冷笑の奥に傷つきやすい心を隠した青年。
(お前の一生を、私に捧げなさい)
そう言ってテレサを求めた後に、彼は戦火に消えた。
だけど、死んだと確認した訳ではない。ただ、戻ってこないだけ。
彼だけじゃない。誰か一人だけでも、どこか遠くへ逃げのびているかもしれない。自分が歌う姿を、見てくれているかもしれない。
希望を持って、歌い続けたけど――。
テレサはいつしか、探すことに疲れ果ててしまっていた。
懐かしい姿を見つけられずに失望するのが怖くて、客席へ目を向けられない。
ただ、ひたすらに歌う。
(どうか私を見つけて、私はここにいる)
また会いましょう。
また会いましょう…。
異国めいた響きを持つ歌詞が、苦おしく流れていく。
客席を見ようとしないテレサは気づいていなかったが、後ろの立見客の間から、一人の男が静かに歩み出てきた。旅人らしく、しなやかな長身の体をマントに包んでいる。
観客の数人が、視界を遮られ抗議の表情を見せたが、男が醸し出す威厳に気圧されて何も言えない。
男は手にヴァイオリンを持っていて、客席の中ほどまで来ると、それを肩へ掲げた。
歌声に優しく寄り添うように、ヴァイオリンの調べが響きわたる。
ドクン…と、テレサの心臓が大きく脈打った。
まさに二重奏と呼ぶにふさわしい、見事な演奏だった。とても、伴奏というレベルではない。この難しい旋律にこれだけの演奏ができる者を、彼女は一人しか知らなかった。
体が震えるのを感じる。それでもテレサは、歌うのを止めなかった。
歌が途切れたらヴァイオリンの音も消えて、誰も演奏なんかしていなくて…これは幻だと、思い知らされるような気がした。
いっそこの瞬間が、永遠に続いてしまえばいいのに。
テレサの願いもむなしく、曲がすべて歌い上げられ―――演奏も終わった。
気の利いた演出に満足した観客から、盛大な拍手が浴びせられる。歓声や口笛が響く中、彼女ははっきりと、舞台へ近づく足音を聞いた。
はじかれたように、テレサの顔が客席へ向けられた。
演奏の主は、もう舞台の前まで来ていた。綺麗に撫でつけたブロンドの髪と、色白の秀麗な顔。男は舞台へ上がると、呆然と座り込むテレサの前にひざまづき、無造作にヴァイオリンを置いた。
震える彼女の手を取って、その甲に優しくキスをする。
形の良い唇が開かれ、言葉が紡がれた。
「レツェ・ルタ・ルーシャ」
お元気ですか?
また会いましょう。
テレサの見開かれた瞳から、大粒の涙がわっと溢れ出てきた。
「キー…ファー…」
こみ上げる嗚咽で、声が形にならない。
「お前の元に、帰って来ると言ったでしょう」
キーファーは記憶にある姿よりも、少し痩せていた。だけど皮肉めいた口元と、それでいて優しげな鳶色の瞳は、少しも変わっていない。
「革命決行の日―――私は重傷を負って、しばらく生死の境をさまよいました。どうにか動けるようになってから、マーラ領へ戻ったのですが…」
泣きじゃくるテレサを支えて立ち上がらせると、キーファーは微笑のまま、かすかに眉をひそめた。
「お前ときたら、マーラ領を飛び出してしまって行方知れず。父上には恩人のお前を見つけださないうちは、私を後継者と認めることはできないと勘当される始末で…まったく、手間をかけさせる」
「ごめん…なさい」
「私と一緒に、来てくれますね。まあ、拒んだとしても、強引に連れていくつもりですが」
テレサは涙で濡れた顔を上げて、はっきりと頷いた。
彼の肩越しに、舞台裏にいる一座の姿があった。団長夫妻は寄り添って、今にも泣きそうな笑顔。団員たちも満面の笑みで、テレサとその恋人に向けて、力いっぱい拍手をしている。
「夢じゃない…よね?」
こんな日が来ることを、ずっと夢見ていた。いつか叶うという希望すら消え果て、ただ無気力な日々を送っていても。
歌うことだけは、諦めなかった。
「相変わらず、埒もないことを言う娘ですね」
キーファーは苦笑しながら、指でテレサの唇をなぞった。
「たっぷりと教えてあげましょう。私がどれほどお前に焦がれ、ヴァイオリンを奏で続けたのかを。一生かけて、ね」
時間はたっぷりとある。
長い別離を経て、ようやく巡り会えた二人には、果てない未来が拓けているのだから。互いに傷ついた心を癒し、もう一度人生を始めるに足るほどの、長い時間が…。
「とりあえず、舞台を降りましょうか。それから静かな場所に行きましょう。お前を抱きしめても、歓声の上がらない場所へ…」
キーファーが珍しく、険のない晴れやかな笑顔で聴衆を見渡した。
右手を高く掲げ、芝居がかった動作で完璧な貴族式の挨拶をする。テレサも笑いながらそれにならい、ドレスの裾をつまんで愛らしくお辞儀をした。
頃合いを見計らった団長の指示で、幕がゆっくり降りていくと、再び、割れんばかりの拍手が湧いた。
喝采の中、キーファーがテレサの腰に手を回し、そっと抱き寄せて。
「それでは皆様、”レツェ・ルタ・ルーシャ”…幸あらんことを」
幕が、降りた。
キーファー×テレサです。
すみません、バッドEDから変化球投げてみました…(でもって暴投?)
ユーテレED後を書こう!と張り切っていたのですが、なんだかキーテレネタがどんどん湧いてしまって、
ちょっと落ち着かないので、先に書くことにしてしまいました。
ざっくり書くつもりでしたが、思ったより時間かかって悔しい…。
私、好きキャラの順番としてはユージィン>カイン>ショナ>キーファー=ゲルハルト=ジョヴァンニなんですけど、
キーテレ2本も書いちゃったのも悔しくて堪らない…。
今度こそユーテレ書く!金髪ドS男なんか知るもんか!!!(←)
魔恋のバッドEDは、誰もはっきり死んだと描写されているわけではないので、
もしかしたら再会できるんじゃない?と望みをかけてしまいます。
ユージィンだったら故郷の村の教会でばったり、とか。
ショナは5年くらい経っていて、魔導石の研究をしているという学者の噂を聞いたテレサが会いに行くと、成長したショナだった、とか…。
お互いに相手が美男美女になってて、照れちゃって上手く話せないのwww
COMMENT
無題
きゃ~っ!!キーファーよ~♪
という感じで、楽しく読ませていただきました。
そうですよね。
はっきり、死んだという描写は書いてないですよね。行方不明ですもんね。
ということは、どこかで生きているということも考えられるわけでして~
うんうん。そうだよね~
と納得しながら読ませていただきました^^
また、気が向きましたら、キーテレを(笑)
とても大満足に読ませていただきました。
無題
こういう展開も素敵ですね^^
楽しく拝見させて頂きました!
御気が向かれましたら、
また素敵なキーテレを読ませて下さいませ♪
では、失礼致します。
お返事
感想ありがとうございますvvv
また書いてしまいました、キーファー…
創作書くときはそれなりに時間をかけて練るのですが、
キーファーに関してはどういうわけかネタが一気に降ってきます。なんで???
ぶっちゃけバッドとベストEDの違いって、相手が帰ってくるかどうかの違いしかないような…(苦笑)
あとはテレサの悲嘆ぶりが違うくらい?
ただ、その中でもキーファーバッドは何とも言えない寂しい余韻があって、すごく印象に残ったんですよね。
(いやキーファーのイベント自体がインパクトだらけですけども!)
>モトト様
はじめまして! 感想ありがとうございます♪
かなり横紙破りなものを書いてしまったので不安だったのですが、
少しは楽しんでいただければ幸いですvvv
キーテレは気が向いたらというか、急にどばっと降ってくるのですが、
今度はもっとまともな展開の話が降ってくれることを祈ります(^_^;)