let there be light
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約束
- 2011/10/02 (Sun) |
- (創作)遙かなる時空の中で1 |
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ブログ立ち上げた時に、テストでちょっと載せた泰明×あかねです。
そのうち削除するかもしれませんが、せっかくだからこのままにしておきます。
書いたの10年くらい前かなぁ…(-_-;)
当時、神田の古本市で妖怪とか怨霊に関する本を買って、
「これで泰神子創作は”問題ない”」とか浮かれていたのを思い出します…(遠い目)
最近は行間とか空けるの面倒で、あまりしないんですけど、この頃はやってますね。
やっぱりその方が見やすいかなぁ?
約束
「あの廊下のすみで眠っているのが、狢だ。昼間はああして眠り、夜になると行動する。それから屏風に寄りかかっている獅子のようなのが、白澤。―――聞いているのか、あかね?」
「はい、もちろんです!」
彼の秀麗な横顔にみとれていたとはとても言えずに、あかねはあわててそう返事をした。
「では、そこの文箱の上にのっているのは?」
「えっと、たしか狒狒、です」
「そのとおりだ」
泰明は目を細めて笑い、彼女の頭をすっと撫でた。
優秀な教え子を誉めるかのように。
傍目から見れば恋人の部屋で二人きり、肩を寄せ合って語らう仲むつまじい光景。
しかしその話の内容は、色めかしいとはとても言えないものだ。
あかねはそっとため息をつき、周囲を見渡した。
最小限の調度品しかない、何とも殺風景な泰明の部屋。
それを彩るかのように、半透明な何かが動き回っているのを、あかねの目は知っている。
(あれは確か、頼豪鼠………だっけ?)
小さな魍魎たちは、身軽な体で几帳の上によじ登ったり、床に転がったり、好き勝手に動き回っていた。
特に害もなく、いちいち払っていてはキリがないので、すっかり野放し状態なのだ。
(あなたのそばで、同じ時間を生きたい―――)
彼のために京へ残り、龍神の神子として以上の関係で接するうちに、気づいたことがある。
泰明はかなりの教えたがりだ。
ここ数日、左大臣の館へ巻物を持って訪ねては、あかねに陰陽道について教授し、また自分の部屋へ招いては、こうして実際に雑霊たちを示して説明してくれる。
陰陽道なんてつまらないと思っているわけではない。
やせこけた獣のような姿の魍魎たちも、はじめは見るたびに背筋が寒くなったものだが、慣れればそれほど気味悪くもない。
だけど。
―――もうちょっと、ロマンチックなムードにならないかなあ………。
彼を創り出した源。
その力と世界の理との関係。
もうひとつの世界の住人たち。
まったく興味がないというわけではなくて、むしろ彼の見つめているもの、すべてを知りたいと思う。
けれどもそれ以上に、あかねのことを見て欲しい。
心も、体も触れ合いたい。
(朴念仁なところも大好きなんだけど)
それだけでは物足りないと感じてしまうのは、欲張りだろうか?
「あかね?」
「はい、聞いています!」
「まだ何も言っていないが」
「………」
恥ずかしさに身をすくめる少女にさして構わず、泰明は先を続けた。
「実はお師匠が、屋敷を一つ手に入れたのだ」
その声は、いつも冷静な彼にしてはうわずっているようにも思える。
「さして広くはないが、私に与えてくださると言う」
「そうなんですか。良かったですね!」
あかねは素直に祝福した。
師匠である安倍晴明の屋敷で寝起きし、居候も同然である今の現状は、彼の年齢や才能にはふさわしくない。
(それに泰明さん自身の家なら、気兼ねなく遊びに行けるものね。二人の仲だって、少しは進展するかもしれない!)
「いつお引越しするんですか? 私に出来ることならお手伝いしますから、言ってくださいね。………どうかしましたか?」
彼が不思議そうに見つめるので、あかねは口を閉ざしてしまった。
あれ? 何かおかしなことを言ったのかな、私………。
「もちろん、一人で住むわけではない」
「わかってます。使用人のひととか、雇うんですよね」
「そうじゃなくて」
もどかしげにかぶりを振ると、綺麗にまとめられた長髪がさらりと揺れる。
「つまりその、私は、お前に結婚の申し込みをしているのだが」
「え………」
思いもよらない言葉に顔を上げると、彼の瞳とまともに光がぶつかった。
澄み切ったトパーズ色のふたつの輝き。
(―――結婚!?)
この理知的な陰陽師の青年には似合わない、けれどあかねにとっては夢のような言葉。
「じゃあ新しい家で、私と泰明さんが一緒に暮らすってこと………ですか?」
「むろん、そうだ」
「二人だけで?」
「嫌なのか?」
「そんなこと、ありません! あの………ものすごく、うれしいです」
うれしいなんて一言ではとても片付けられない。
天にも上るような、とはきっとこういう気分だろう。
「泰明さんの奥さんになるんですね、私………」
溢れ出した涙を、彼が自分の袂でそっと拭ってくれた。
まだその頬が異質なまじないの色に染まっていた頃、「自分は人形だ」と言っていたのが嘘みたいだ。
優しくて素敵な、私の―――旦那様。
あかねの口元から笑みがこぼれるのを見て安心したのか、彼は大きく息をついた。
それから満足気に笑い、二人の未来など何処吹く風、といった様子の無関心な雑霊たちを見渡す。
「師匠が北の方と結婚する時、魍魎や式神の姿にひどくおびえられて、仕方なく屋敷に寄りつかせないよう、たいそう気を配ったのだそうだ。だから、お前もこの者たちを恐れるのではないか。それだけが気がかりだった」
(だからあんなに一生懸命、陰陽道や魍魎たちのことを教えてくれてたんだ)
彼の教えたがりの理由にようやく思い当たり、あかねは納得した。
「だが心配はいらないようだな。それだけ近くに寄って来ても、まったく気にならないのだから」
そう言いながら泰明が彼女のかたわらを指で示す。
つられて顔を向けたあかねの瞳に、毛むくじゃらの子鬼の姿が飛び込んだ。
彼(?)も、ぎょろりと鋭い目であかねを見上げる、刹那。
「きゃあっ!!」
ふいをつかれた彼女は、みっともなく叫んで泰明の首にしがみついてしまった。
「やっぱり………やめるか?」
あきれたようにため息をついた彼に、あかねはぱっと顔を上げて答える。
「いいえ大丈夫です! ちゃんとかわいがってあげられます!」
泰明さんと結婚。
(そんな人生最大の幸福を、こんなことであきらめるもんですか)
「別にかわいがってやる必要はないのだが」
過剰なまでの少女の意気込みを諭そうとする青年の言葉を、しかし彼女はほとんど聞いていなかった。
「それより一緒に暮らすなら、他にも考えなきゃいけないことがたくさんありますよ! 調度品はどんなものを選べばいいのかな? 藤姫に見立ててもらわないと。お仕事が忙しくても、夕食は一緒に食べましょうね。どうしても帰れない時や出張の時は、ちゃんとお手紙下さいね。休みの日は二人でゆっくり過ごしたいし………」
「そんなに取り決めがあるのか?」
うんざりな様子でたずねる泰明に、あかねは可愛らしく小首をかしげた。
「やっぱり………やめます?」
「いや、問題ない。それがお前の望みならば、叶えよう」
彼が一瞬の間も置かずに答えてくれたのが、うれしかった。
(小さな庭にはたくさんお花を植えて、季節ごとにお花見をするの。お部屋にもいっぱい飾って。この子たちが食べてしまわないよう、しっかり言いつけておかないと………)
しなやかで、それでいて力強い腕に抱きしめられながら、少女の夢は尽きない。
その将来にはせる夢の中に、当然のごとく自分の存在がある。
深い感動をこめて見つめる泰明の目の前で、突然あかねが赤面した。
「どうした?」
「あの………その、寝所には、あの子たちを入れないようにして下さいね」
「なぜ?」
「だって、恥ずかしいじゃないですか」
彼は本当に「結婚」の意味がわかっているのだろうか?
(聞くまでもないことじゃない!)
ちょっとだけ。だけど。
青年とのバラ色の未来に、何となく不安がよぎった。
(やっぱり朴念仁かも)
少しだけ考えてから、泰明はまだ合点がいかない顔で、それでもうなづいた。
「わかった。―――そうすると、今もやはり寄りつかせてはいけないのだろうな」
そう言うと、指先でそっとあかねの顎を持ち上げる。
もう一方の手を軽く振ると、それだけで魍魎たちはぞろぞろと外へ出て行ってしまった。
「愛している」
しんとした部屋の中、わずかに頬を紅潮させながら囁く。
「化生の者でさえ優しくいたわり、包み込んでしまう。そんな慈愛に満ちたあなたのそばにいられて、私はとてつもない果報者だ―――」
「私も」
(無愛想で教えたがりで、恋人との熱い語らいもできなくて)
だけどあかねの一番欲しい言葉は、ちゃんと知っている。
「泰明さんを、愛しています」
瞳のすみに、去りそびれた雑霊が一匹、とまどいながらうろついているのが映った。
彼女が見ているのに気づくと、あわてて皺だらけの手で両目を覆い、二人に背を向ける。
安心したあかねは自分も瞳を閉じて、ゆっくりと近づく泰明の唇を待った。
(朴念仁だなんて、とんでもない)
きつく抱き寄せられ、重ねられた唇の熱い感触に気が遠くなりながら、あかねはそう思っていた。
約束された未来。
明日も明後日も、これから先ずっと、同じ時間を生きていける。
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