let there be light
ネオロマ中心はきちがえロマンスサイト。ラブΦサミットとか魔恋の六騎士の二次創作で更新中です☆
パーフェクト・ナイト
- 2011/12/19 (Mon) |
- (創作)ラブΦサミット |
- CM(0) |
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ラブΦサミット(ロイ×ゆい)
パーフェクト・ナイト
携帯電話の着信音が、広いリビングに鳴り響く。
ソファから飛び上がったあたしは、ひったくるようにして掴み、急いで耳に押し当てた。
足元に寝そべるクッキーが、お昼寝の邪魔をされて、かるく抗議の鳴き声を上げる。
「もしもし!」
「メリークリスマス、ゆい」
その声は、この世でいちばん大切な親友のものだった。―――が、残念ながら、あたしが心待ちにしている相手ではなくて。
「ごめんなさいね、期待はずれで」
あたしの落胆は電話の向こうにも難なく伝わってしまったようで、すぐにすまなそうな口調に変わる。
「そんなことないよ、メリークリスマス、シンシア」
あわててそう言うと、ソファに座りなおし、リモコンでテレビの音量を下げた。
「パーティーはどう?」
クリスマスイブは父親の会社が主催するパーティーに出席するのだと、冬休みに入る前に聞いていた。
「会場はすごいお祭騒ぎよ。今は控え室にいるけれど。…さっき、ロイが来たわ」
「そう…まだ会場にいるのかな?」
もしいるのなら、シンシアの携帯電話を借りて、少しだけでも話がしたい。
5分、ううん、1分。
“メリークリスマス”の一言だけでもいいから。
「いいえ、父に挨拶だけして、すぐ帰ってしまったわ。それよりも、あなた、今ひとりなの?」
(ひとりじゃないよ、クッキーがいるから)
そう返そうと思ったけど、あまり説得力がないような気がしたので、やめておいた。
誰もが心躍らせるクリスマスイブの夜を、ひとりと一匹で過ごしているのは―――うん、やっぱり寂しい。
「つきあって初めてのクリスマスなのに、ロイはいったい何をしているの!」
ロイへのいらだちでシンシアの口調がきつくなる。
「午後からいくつか挨拶回りをして、夜には帰ってこれるはずだったんだけど…」
あたしはなだめるように、事情を説明した。
学園が冬休みに入ってすぐ、あたしとロイはニューヨークへやって来た。
クリスマスと新年を、二人で過ごすために。
もちろん、ロイは相変わらず仕事で留守がちなのだけど、少しでも長くそばにいたくて、彼がニューヨークに所有するマンションに転がり込んできたというわけ。
ロイが父親からまかされている投資会社でトラブルが発生したと連絡があったのは、今朝、ふたりで朝食を食べている時だった。
心配顔のあたしを残して、ロイは急いで出勤していった。
夕方、彼の秘書から“少し帰宅が遅れるとのことです”と連絡があって、それからずっと、何の連絡もないまま数時間が過ぎている。
「よかったら、うちのパーティーに来ない? 迎えの車を行かせるから」
「せっかくだけど…」
シンシアの誘いは魅力的だったけど、あたしの心は動かされなかった。
「ごめんなさい、やっぱりロイを待っていたいの」
「そう…。なら、仕方ないわね」
あたしが承諾するはずがないとわかっていたのか、シンシアは、あっさりと引き下がった。
「せめて、あなたの薄情な恋人が帰ってくるまで、こうしておしゃべりしていましょうよ。私も退屈なパーティーより、その方がずっと楽しいわ」
親友のあたたかな心づかいが嬉しくて、あたしは微笑みながら頷いた。
「それじゃあ、ゆい。パーティーに来たくなったら、いつでも電話をちょうだいね。待っているから」
「うん。ありがとう、シンシア」
電話を切ったとたん、広いリビングが急に静かになり、あたしはあわててテレビの音量を上げた。時計を見ると、午前0時まであと30分。
ロイが帰ってくるまで電話していよう、とシンシアは言ってくれたけれど、パーティーのスタッフが彼女を探しに来たため、あたしは電話を切ることにした。
こんなに長い間、会長令嬢がパーティーの席をはずすのは、やっぱりよくないよね。
親友との取り留めないおしゃべりは、やっぱり楽しくて、朝からくすぶっていたモヤモヤが晴れていく。
―――ような、そんな気がしたのだけど。
テレビから陽気なクリスマスソングが流れてきて、胸にどっと寂しさが押し寄せてしまった。
「はぁ…」
あたしはため息をつくと、立ち上がり、リビングのテーブルに近付いた。
真っ白なクロスをかけたテーブルの上には、オードブルとサラダ、それからふたり分の食器がセットされている。七面鳥もスープも温めるだけでいいし、ケーキだって冷蔵庫で出番を待っている。
なのに。
クリスマスを祝う、大切なパートナーだけが足りない。
(やっぱり、無理だったのかな)
テーブルの上のキャンドルを見つめながら、ふと、そんなことを考えてしまう。
「イブは、ふたりだけで過ごしたい」
そう言ったあたしに、ロイはそっけなく「ああ、わかった」とだけ答えた。
大丈夫だとか、難しいだなんてことは言わない。
ロイが言う「わかった」は、けして揺るがない、絶対的な肯定の言葉。
裏切られることなんて、ありえない、はずだけど――― 現実には、あたしはひとりきり、待ちぼうけをくわされている。
(ロイのせいじゃない。急なトラブルで、仕方ないんだもの)
そう、頭では理解していても、心ははりさけそうで。
気がつくと、あたしの両目からわっと涙があふれ出していた。
「くぅん…?」
あたしがうつむいたのを見て、クッキーがいぶかしむような鳴き声をあげた。
「ごめんね、クッキー。―――こんなことじゃ、いけないよね」
足元にまとわりつく柔らかい毛並みが、暗い感情から我に返らせてくれる。
あたしとロイの間に、こんなよどんだ気持ちは似合わない。
こんないじけた気持ちで、彼を愛したくなんかない。
(あたしは、鷹の姫。いずれ“鷹の長”になるロイのパートナーなんだから)
「…よし!」
涙をぬぐい、誰に言うともなくつぶやくと、あたしはディナーの支度にかかりはじめた。
弱気になっていれば、ロイが帰ってくるわけでもない。
ロイがいなくても、ひとりきりでも―――ううん、クッキーがいる―――少しでも楽しい聖夜を過ごそう。
どうしても寂しさに耐えられなかったら、シンシアに連絡すればいい。親友に甘えてばかりじゃいけないけど、きっと、優しく迎えてくれるだろう。
そんなことを考えながら、あたしは料理を温め、合間に明るい色のワンピースに着替えた。
軽く化粧もほどこして、鏡の前に立ってみる。
「うん、完璧!」
空元気なのはわかっているけど、何だか気分が弾んできた。
最後に、テーブルの上のキャンドルに火を灯すと、いつの間にか時計の針は0時まであと1分を指していた。
あたしはあわててテーブルにつき、シャンパンを手にする。
「0時になったら、乾杯しようね。―――クッキー?」
足元にいるクッキーに声をかけると、彼はリビングのドアをじっと見つめて、反応がない。
不思議に思って首をかしげると、ふいに玄関の鍵を開ける金属音が響いた。
すぐあとに続く、荒々しく廊下を踏み鳴らす足音。
ただ事ではない雰囲気を感じ取って、あたしは思わず立ち上がった。
ガチャリ。
勢いよくリビングのドアが開き、ほとんど転がりこむように、ロイが入ってきた。
「わうん!」
ふいをつかれて動けないでいるあたしよりも先に、クッキーがご主人様に駆け寄った。だけどロイは、肩にかけていた上着を放り投げると、黒い体をすりつけるクッキーにかまわず、まっすぐあたしに近付いてくる。
ちょっと乱暴なくらいの仕草で、あたしの腕を掴んで。
「あ…」
次の瞬間、あたしはロイの腕の中にいた。
きつく抱きすくめられ、強引にあごを持ち上げられて―――唇が、重なる。
「んっ…!」
熱のこもったキスに、体の心から蕩けてしまいそうになる。
必死で長身の体にしがみついていると、つけたままのテレビから、午前0時を告げるアナウンサーの声が聞こえてきた。
―――それから10秒以上も経って、ようやくロイは唇を離した。
ほう、と吐息をつくあたしの耳元に、そっとささやく。
「MERRY CHRISTMAS,MY SWEETHEART.」
「どう、して…」
キスなんかするの、と言いたかったけど、情けないことにこれが精一杯。
「どうせならカウントダウンの瞬間を、ベストコンディションで迎えたいだろう?」
まったく悪びれない口調に、あたしは言い返す気力もなくなってしまった。
それは、テーブルの上に自分の好物が並んでいるのを見て、彼の瞳が輝いたせいもある。
と、その手がテーブルの皿に伸びて、オードブルのクラッカーを一切れ、さっと口に放りこんだ。
「…お行儀悪い」
「昼間から何も食べてないんだ。これくらい、いいだろ」
「―――え?」
あたしはびっくりしてロイを見上げた。
「お前と朝食を取ってから、コーヒーとかシャンパンを口にしたくらいだ」
「でも、パーティーの挨拶回りをしてたんでしょう? お料理だって、たくさん出てたはずなのに…」
「わからないのかよ」
ロイはちょっと子供っぽいしかめ面で、暗い色の金髪を振った。
「俺にだって、恋人と過ごすクリスマスを、楽しみに思う気持ちくらいあるんだぜ」
そう言う頬が、かすかに赤く染まっていて。
(あ、照れてる)
何だか意外というか、嬉しいというか。―――ううん、やっぱり嬉しくてたまらない。
「すぐに支度するね」
「ああ、頼む」
キッチンへ向かおうとするあたしに、ロイは片目をつぶってみせた。
「もちろん、デザートはお前だ。頭のてっぺんからつま先まで、美味しくいただいてやるから覚悟しておけよ?」
たちまち、あたしの顔はロイよりも真っ赤に染まってしまった。
初心な反応に満足したロイが、笑い声を上げる。
その声に、何か別の音が重なった。
「―――?」
発信元をたどると、開け放しになったドアのそばに、クッキーが座り込んでいる。その下に敷かれているのは、ロイのスーツの上着。
どうやら胸ポケットに入れたままの携帯電話が、マナーモードでブルブル揺れているらしい。
クッキーはお腹の下に感じる振動が気に入ったようで、楽しそうに尻尾を振った。
それを見て、ロイがにやりと笑う。
「お前は本当に、飼い主思いのいい子だ、クッキー」
「わうん!」
ご主人様に褒められて得意気に吠えたクッキーは、上着をくわえてリビングを出て行ってしまった。
「…大事な用件かもしれないけど、いいの?」
「トップとして、やるべき手はすべて打った。あとは部下の仕事だ」
きっぱりと言い放つと、あたしに両手を広げてみせた。
「さあ、楽しいクリスマスパーティーを始めようぜ」
「うん!」
あたしは全速力で、ディナーの用意に取りかかった。
やっぱり、ロイはすごい。
あたしの寂しさとか不安とか、そんな弱気な感情を、たちまちに拭い去ってしまう。
ロイがいるだけで。
―――あたしの毎日は、完璧な日々になる。
「何か言ったか?」
オーブンの中の七面鳥をのぞきこんでいたロイが、あたしの方を振り向いた。
「ううん、何も。今夜は素敵な夜にしようね、ロイ」
するとロイは、にやりと笑って後ろからあたしの腰を抱いた。
「お前と俺が一緒にいて、そうならないはずがないだろ?」
耳元を吐息でくすぐられて、思わず背中をそらせながら、あたしはシンシアに連絡しなきゃ、と思いついた。きっと心配してるだろう。
それに、ロイに赤面させられた仕返しに、彼女にきつい皮肉をお見舞いしてもらうのもいい。
少しだけ。
もう少しだけ、この甘い時間を楽しんでから。
メリー・クリスマス。
世界でいちばん素敵な夜を、あなたと。
携帯電話の着信音が、広いリビングに鳴り響く。
ソファから飛び上がったあたしは、ひったくるようにして掴み、急いで耳に押し当てた。
足元に寝そべるクッキーが、お昼寝の邪魔をされて、かるく抗議の鳴き声を上げる。
「もしもし!」
「メリークリスマス、ゆい」
その声は、この世でいちばん大切な親友のものだった。―――が、残念ながら、あたしが心待ちにしている相手ではなくて。
「ごめんなさいね、期待はずれで」
あたしの落胆は電話の向こうにも難なく伝わってしまったようで、すぐにすまなそうな口調に変わる。
「そんなことないよ、メリークリスマス、シンシア」
あわててそう言うと、ソファに座りなおし、リモコンでテレビの音量を下げた。
「パーティーはどう?」
クリスマスイブは父親の会社が主催するパーティーに出席するのだと、冬休みに入る前に聞いていた。
「会場はすごいお祭騒ぎよ。今は控え室にいるけれど。…さっき、ロイが来たわ」
「そう…まだ会場にいるのかな?」
もしいるのなら、シンシアの携帯電話を借りて、少しだけでも話がしたい。
5分、ううん、1分。
“メリークリスマス”の一言だけでもいいから。
「いいえ、父に挨拶だけして、すぐ帰ってしまったわ。それよりも、あなた、今ひとりなの?」
(ひとりじゃないよ、クッキーがいるから)
そう返そうと思ったけど、あまり説得力がないような気がしたので、やめておいた。
誰もが心躍らせるクリスマスイブの夜を、ひとりと一匹で過ごしているのは―――うん、やっぱり寂しい。
「つきあって初めてのクリスマスなのに、ロイはいったい何をしているの!」
ロイへのいらだちでシンシアの口調がきつくなる。
「午後からいくつか挨拶回りをして、夜には帰ってこれるはずだったんだけど…」
あたしはなだめるように、事情を説明した。
学園が冬休みに入ってすぐ、あたしとロイはニューヨークへやって来た。
クリスマスと新年を、二人で過ごすために。
もちろん、ロイは相変わらず仕事で留守がちなのだけど、少しでも長くそばにいたくて、彼がニューヨークに所有するマンションに転がり込んできたというわけ。
ロイが父親からまかされている投資会社でトラブルが発生したと連絡があったのは、今朝、ふたりで朝食を食べている時だった。
心配顔のあたしを残して、ロイは急いで出勤していった。
夕方、彼の秘書から“少し帰宅が遅れるとのことです”と連絡があって、それからずっと、何の連絡もないまま数時間が過ぎている。
「よかったら、うちのパーティーに来ない? 迎えの車を行かせるから」
「せっかくだけど…」
シンシアの誘いは魅力的だったけど、あたしの心は動かされなかった。
「ごめんなさい、やっぱりロイを待っていたいの」
「そう…。なら、仕方ないわね」
あたしが承諾するはずがないとわかっていたのか、シンシアは、あっさりと引き下がった。
「せめて、あなたの薄情な恋人が帰ってくるまで、こうしておしゃべりしていましょうよ。私も退屈なパーティーより、その方がずっと楽しいわ」
親友のあたたかな心づかいが嬉しくて、あたしは微笑みながら頷いた。
「それじゃあ、ゆい。パーティーに来たくなったら、いつでも電話をちょうだいね。待っているから」
「うん。ありがとう、シンシア」
電話を切ったとたん、広いリビングが急に静かになり、あたしはあわててテレビの音量を上げた。時計を見ると、午前0時まであと30分。
ロイが帰ってくるまで電話していよう、とシンシアは言ってくれたけれど、パーティーのスタッフが彼女を探しに来たため、あたしは電話を切ることにした。
こんなに長い間、会長令嬢がパーティーの席をはずすのは、やっぱりよくないよね。
親友との取り留めないおしゃべりは、やっぱり楽しくて、朝からくすぶっていたモヤモヤが晴れていく。
―――ような、そんな気がしたのだけど。
テレビから陽気なクリスマスソングが流れてきて、胸にどっと寂しさが押し寄せてしまった。
「はぁ…」
あたしはため息をつくと、立ち上がり、リビングのテーブルに近付いた。
真っ白なクロスをかけたテーブルの上には、オードブルとサラダ、それからふたり分の食器がセットされている。七面鳥もスープも温めるだけでいいし、ケーキだって冷蔵庫で出番を待っている。
なのに。
クリスマスを祝う、大切なパートナーだけが足りない。
(やっぱり、無理だったのかな)
テーブルの上のキャンドルを見つめながら、ふと、そんなことを考えてしまう。
「イブは、ふたりだけで過ごしたい」
そう言ったあたしに、ロイはそっけなく「ああ、わかった」とだけ答えた。
大丈夫だとか、難しいだなんてことは言わない。
ロイが言う「わかった」は、けして揺るがない、絶対的な肯定の言葉。
裏切られることなんて、ありえない、はずだけど――― 現実には、あたしはひとりきり、待ちぼうけをくわされている。
(ロイのせいじゃない。急なトラブルで、仕方ないんだもの)
そう、頭では理解していても、心ははりさけそうで。
気がつくと、あたしの両目からわっと涙があふれ出していた。
「くぅん…?」
あたしがうつむいたのを見て、クッキーがいぶかしむような鳴き声をあげた。
「ごめんね、クッキー。―――こんなことじゃ、いけないよね」
足元にまとわりつく柔らかい毛並みが、暗い感情から我に返らせてくれる。
あたしとロイの間に、こんなよどんだ気持ちは似合わない。
こんないじけた気持ちで、彼を愛したくなんかない。
(あたしは、鷹の姫。いずれ“鷹の長”になるロイのパートナーなんだから)
「…よし!」
涙をぬぐい、誰に言うともなくつぶやくと、あたしはディナーの支度にかかりはじめた。
弱気になっていれば、ロイが帰ってくるわけでもない。
ロイがいなくても、ひとりきりでも―――ううん、クッキーがいる―――少しでも楽しい聖夜を過ごそう。
どうしても寂しさに耐えられなかったら、シンシアに連絡すればいい。親友に甘えてばかりじゃいけないけど、きっと、優しく迎えてくれるだろう。
そんなことを考えながら、あたしは料理を温め、合間に明るい色のワンピースに着替えた。
軽く化粧もほどこして、鏡の前に立ってみる。
「うん、完璧!」
空元気なのはわかっているけど、何だか気分が弾んできた。
最後に、テーブルの上のキャンドルに火を灯すと、いつの間にか時計の針は0時まであと1分を指していた。
あたしはあわててテーブルにつき、シャンパンを手にする。
「0時になったら、乾杯しようね。―――クッキー?」
足元にいるクッキーに声をかけると、彼はリビングのドアをじっと見つめて、反応がない。
不思議に思って首をかしげると、ふいに玄関の鍵を開ける金属音が響いた。
すぐあとに続く、荒々しく廊下を踏み鳴らす足音。
ただ事ではない雰囲気を感じ取って、あたしは思わず立ち上がった。
ガチャリ。
勢いよくリビングのドアが開き、ほとんど転がりこむように、ロイが入ってきた。
「わうん!」
ふいをつかれて動けないでいるあたしよりも先に、クッキーがご主人様に駆け寄った。だけどロイは、肩にかけていた上着を放り投げると、黒い体をすりつけるクッキーにかまわず、まっすぐあたしに近付いてくる。
ちょっと乱暴なくらいの仕草で、あたしの腕を掴んで。
「あ…」
次の瞬間、あたしはロイの腕の中にいた。
きつく抱きすくめられ、強引にあごを持ち上げられて―――唇が、重なる。
「んっ…!」
熱のこもったキスに、体の心から蕩けてしまいそうになる。
必死で長身の体にしがみついていると、つけたままのテレビから、午前0時を告げるアナウンサーの声が聞こえてきた。
―――それから10秒以上も経って、ようやくロイは唇を離した。
ほう、と吐息をつくあたしの耳元に、そっとささやく。
「MERRY CHRISTMAS,MY SWEETHEART.」
「どう、して…」
キスなんかするの、と言いたかったけど、情けないことにこれが精一杯。
「どうせならカウントダウンの瞬間を、ベストコンディションで迎えたいだろう?」
まったく悪びれない口調に、あたしは言い返す気力もなくなってしまった。
それは、テーブルの上に自分の好物が並んでいるのを見て、彼の瞳が輝いたせいもある。
と、その手がテーブルの皿に伸びて、オードブルのクラッカーを一切れ、さっと口に放りこんだ。
「…お行儀悪い」
「昼間から何も食べてないんだ。これくらい、いいだろ」
「―――え?」
あたしはびっくりしてロイを見上げた。
「お前と朝食を取ってから、コーヒーとかシャンパンを口にしたくらいだ」
「でも、パーティーの挨拶回りをしてたんでしょう? お料理だって、たくさん出てたはずなのに…」
「わからないのかよ」
ロイはちょっと子供っぽいしかめ面で、暗い色の金髪を振った。
「俺にだって、恋人と過ごすクリスマスを、楽しみに思う気持ちくらいあるんだぜ」
そう言う頬が、かすかに赤く染まっていて。
(あ、照れてる)
何だか意外というか、嬉しいというか。―――ううん、やっぱり嬉しくてたまらない。
「すぐに支度するね」
「ああ、頼む」
キッチンへ向かおうとするあたしに、ロイは片目をつぶってみせた。
「もちろん、デザートはお前だ。頭のてっぺんからつま先まで、美味しくいただいてやるから覚悟しておけよ?」
たちまち、あたしの顔はロイよりも真っ赤に染まってしまった。
初心な反応に満足したロイが、笑い声を上げる。
その声に、何か別の音が重なった。
「―――?」
発信元をたどると、開け放しになったドアのそばに、クッキーが座り込んでいる。その下に敷かれているのは、ロイのスーツの上着。
どうやら胸ポケットに入れたままの携帯電話が、マナーモードでブルブル揺れているらしい。
クッキーはお腹の下に感じる振動が気に入ったようで、楽しそうに尻尾を振った。
それを見て、ロイがにやりと笑う。
「お前は本当に、飼い主思いのいい子だ、クッキー」
「わうん!」
ご主人様に褒められて得意気に吠えたクッキーは、上着をくわえてリビングを出て行ってしまった。
「…大事な用件かもしれないけど、いいの?」
「トップとして、やるべき手はすべて打った。あとは部下の仕事だ」
きっぱりと言い放つと、あたしに両手を広げてみせた。
「さあ、楽しいクリスマスパーティーを始めようぜ」
「うん!」
あたしは全速力で、ディナーの用意に取りかかった。
やっぱり、ロイはすごい。
あたしの寂しさとか不安とか、そんな弱気な感情を、たちまちに拭い去ってしまう。
ロイがいるだけで。
―――あたしの毎日は、完璧な日々になる。
「何か言ったか?」
オーブンの中の七面鳥をのぞきこんでいたロイが、あたしの方を振り向いた。
「ううん、何も。今夜は素敵な夜にしようね、ロイ」
するとロイは、にやりと笑って後ろからあたしの腰を抱いた。
「お前と俺が一緒にいて、そうならないはずがないだろ?」
耳元を吐息でくすぐられて、思わず背中をそらせながら、あたしはシンシアに連絡しなきゃ、と思いついた。きっと心配してるだろう。
それに、ロイに赤面させられた仕返しに、彼女にきつい皮肉をお見舞いしてもらうのもいい。
少しだけ。
もう少しだけ、この甘い時間を楽しんでから。
メリー・クリスマス。
世界でいちばん素敵な夜を、あなたと。
これも相棒のところのクリスマス企画で書いたもの。
(書き上げた時は、クリスマスどころか新年を迎えてましたけどね…)
ロイは絶対にハーレクイン的なノリで書きたい!とずぅっと思っていました。
その割にはヌルいんですが…もっとあんなこととか、こんなこととかやればよかったかな…
イメージソングは初代ミンメイ役だった飯島真理さんの「バイバイ・クリスマス」
20年くらい前の曲です。懐かしいなぁ!
ロイは遅れてやって来るくせに、おいしいところを全部さらっていくような気がしますw
企画モノなので色々と自重してしまいましたが、今度書く時はもっとはきちがえたいですね!
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