let there be light
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光あふれて
- 2012/07/08 (Sun) |
- (創作)魔恋の六騎士 |
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光あふれて
キィ……と軋んだ音を立てて、教会の扉が開かれた。
一番前の席に座り、ぼんやりと祭壇を見上げていたユージィンが振り向くと、テレサが扉に寄り添うようにして立ち、ためらいがちな微笑みを投げかけてきた。
「ごめんね、ユージィン。ずいぶん待たせちゃったでしょう?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
テレサが白いエプロンを脱ぎながら、小走りで近づいてくる。
カフェの給仕の仕事が終わって、ここまで駆けて来たのだろう。乱れて額にまとわりつく赤毛を、頭を振って払いのける。
上気した頬の愛らしさに、ユージィンの口元が自然とほころんだ。
「ルノーには急がなくていいから、とお願いしたのですが……伝わっていませんでしたか?」
「聞いたけど、ユージィンが待ってくれていると思うと、何だか落ち着かなくて。もう少しだけ、待っててね」
エプロンと手に持っている駕籠を椅子に置くと、テレサは立ち上がって出迎える彼の脇をすり抜け、祭壇の前にひざまづいた。
両手を組み、真摯に祈りを捧げる。
その清らかな姿に、入院していた頃の思い出が重なった。
彼女の故郷であるこの村へ来る前のことだが、ユージィンは何ヶ月もの間、ある病院で療養していた。ひどい怪我を負い、記憶を失って―――。
病院の中にも礼拝堂があり、彼は幾度となくそこを訪れては、不安の押し寄せる心を慰められたものだ。もしかしたら自分は、神に仕える敬虔な司祭なのかもしれない。そんなことさえ思っていた。
だが……そうではなかったと、今は知っている。
礼拝堂は自分の大切な人たちとの、かけがえない思い出の場所だった。自分を家族と呼び、広いアルミスの地から探し出してくれた、テレサとその弟、ルノーとの―――。
「すみません、突然呼び出してしまって」
お祈りを終えて、今度こそ彼の元へやって来たテレサの手を取ると、椅子に座るよう促した。
「そんなこと、構わないけど……家では話せないことなの?」
カフェでの仕事が終わったら教会の礼拝堂に来てほしいと、ルノーに伝言を頼んでいた。
同じ家に暮らしているのに、どうして……と、テレサがいぶかしむのも無理ないことだ。握りしめている彼女の手に、わずかに緊張が走るのがわかった。
彼女の不安を拭うように優しく微笑んでから、ユージィンは口を開いた。
「今日、校長からお話がありました。私を正式に、教師として雇ってくださるとのことです」
ユージィンは村の学校で教師をしている。といっても、病気で静養している教師の代用としてだが。
急な欠員で悩む校長に、ルノーがユージィンのことを話したのがきっかけだった。もちろんまったく覚えていないが、自分はルノーの勉強をよく見てやっていたらしい。
静養中の教師の病状は回復したが、これを機に南方の故郷へ帰ることになって、ユージィンの正式な採用が決まったのだった。
「本当に? おめでとう!」
テレサが満面の笑みを浮かべて喜びを表すと、ユージィンが照れたようにうつむいた。
「ユージィンは教え方も上手で、優しい先生だって評判だもの。生徒のみんなも、きっと喜ぶよ」
「ありがとうございます。ですが、話はそのことではないんです。つまり……」
そう言ったきり、ユージィンは水色の瞳でじっと彼女を見つめたまま、口を閉ざしてしまった。
ユージィンは一見するといかにも温和な風情だが、テレサに対しては良くも悪くも、物言いが率直で容赦がない。そんな彼らしくない歯切れの悪さに、テレサは訳がわからず首をかしげた。
「ユージィン……?」
先を促すように呼びかけると、突然ユージィンが立ち上がった。
滑らかな動きでテレサの前にひざまずき、膝に置かれた彼女の手を取ると、優しく口づける。
「テレサ、私と結婚してくれませんか」
「え……」
「ずっと考えていたんです。いつ切りだそうかと……」
思いがけない言葉に、テレサの瞳が大きく見開かれた。
「二人きりになると、ルノーにいつも聞かれるんです。いつ結婚式をあげるのか、と。今日も校長が、身を固めるいい機会だろう、などと言って……」
ルノーの母親にも、娘同然のテレサをどうか幸せにしてやって欲しい、と前々から懇願されている。
テレサが働いているカフェの主人からは、会うたびに「ちゃんと掴まえておかないと、余所の男にさらわれてしまうぞ」とたきつけられていて。
「おかしいですね。みんな、私があなたにプロポーズするのが当たり前だと思っていて……私も、そうしたいと思っているんです」
彼自身、それ以外の未来なんて考えたこともなかった。
アルミスの病院で彼女に巡り会い、その目映い笑顔に触れてから、ずっと―――。
「どう……ですか?」
緊張で震えるテレサの両手を優しく撫でながら、ユージィンが遠慮がちに言った。
「どう、って……?」
「私と結婚してくれますか?」
すらりとした指を伸ばして、彼女の頬を拭う。その仕草で初めて、テレサは自分が泣いていることに気づいた。
「嬉しくて…だって、こんな……」
期待していなかった、と言えば嘘になる。
彼女にだって普通の娘らしい夢や憧れもあって、その気持ちが向かう先にはいつも、夢見るような水色の瞳の青年がいて。
二人の間に流れる感情は同じものだとわかっていても、それが形にならないもどかしさも、確かに感じていたから。
「返事を聞かせてください」
「そんなの、わかっているでしょう?」
「それでも言葉にしてもらえることが、たまらなく嬉しいんですよ」
テレサが泣き笑いの表情でじらすように言うと、ユージィンも少しだけ皮肉めいた口調でやり返す。
でも彼の言う通りだ、とテレサは思った。
ユージィンがそうしてくれたように、自分も喜びを素直に、言葉に現して伝えてあげたい。
「返事はもちろん……はい。それ以外の答えなんて、ないよ」
涙で滲むテレサの瞳の中で、ユージィンが肩の荷がおりたように、はにかんだ笑みを浮かべた。
それから身を乗り出して、テレサの肩に手を回す。その動きに応えて彼女も立ち上がると、ユージィンは彼女の柔らかな赤毛に頬を埋めた。
「……ルノーと私は、ここで出会ったんだそうですね」
細い顎を上げたユージィンは、ゆっくりと礼拝堂の中を見渡した。
「そうだよ。そうしてあなたがルノーを村から連れ出して、私がそれを追いかけて……全部、この場所から始まった」
それから、どれだけの時間と出来事が過ぎていったのだろう。
失ったものは数え切れなくて―――それでもこの手に残された、かけがえない光もある。
懐かしい記憶をさまよっていたテレサの瞳が、ふとユージィンを見つめた。
「……だから、わざわざ礼拝堂まで呼び出したの?」
「あなたとの新たな未来を始めるのに、他にふさわしい場所がありますか?」
ここからまた、すべてが始まる。
今度は最初からまっすぐにあなただけを見つめて、共に手をたずさえて行こう。
ユージィンの手が、優しく彼女の頬を撫でる。熱を帯びる手のひらから押さえきれない感情が伝わってきて、テレサはそっと瞳を閉じた。
―――キスは唇ではなく、額に降りてきた。
「……神様の前ですから、このくらいにしておきましょう」
耳元でそうささやくと、もう一度強く抱きしめた。
(これで……いい)
ユージィンはざわつく心の中で、暗闇をかきわけるように自分に言い聞かせた。
自分は記憶喪失で、彼女とルノーがいなければ行くあてもない、流される小舟のような不確かな存在だ。
いつだって、漠然とした不安を抱えているけれど。
それでもテレサを愛して、愛される未来を、望むことが許されるなら……。
すがるように、ユージィンは祭壇に視線を向けた。
簡素な祭壇の前には、神の大いなる奇跡を彫り上げたレリーフが、高く飾られている。その祈りの象徴を見つめる目が、不意に黒い装束の人影をとらえた。
(あれは……?)
艶やかな黒髪に、すらりとした長身。片方の瞳は豊かな大地を思わせる緑色で、もう片方は……輝かしいばかりの金色。
幻と言うにはあまりにも鮮明で、神々しく―――しかしその姿は、一瞬でかき消えた。
「―――!」
無意識にその名を呼ぼうとしたユージィンの声は、形にはならなかった。
「ユージィン?」
彼の胸に頬を寄せていたテレサが、異変に気づいて顔を上げる。
「……何でもありません」
たった今見た神の姿を、その名前を、思い出そうとしてユージィンはやめた。
あれが誰かと、確かめる必要なんてない。
ただ、
(救われた……)
と、思った。
自分の進む道は、間違ってはいない。テレサを慈しみ、手を取り合って進む未来に。
神の祝福が、変わらずもたらされている。
「感謝を捧げていたんです。何も持たない私に、あなたという素晴らしい贈り物をくださった、私の神に……」
ユージィンは体を離すと、すっと彼女に腕を差し出してきた。
その意図を読んだテレサが、微笑んで手をからめる。
腕を組んだ二人は、予行演習をするように、古びた赤い絨毯をゆっくりと踏みしめて歩いた。
……礼拝堂の扉を開くと、夕暮れの柔らかい陽光が二人を出迎えた。
プロポーズの結末を気にかけていたのだろう。ルノーとその母親が、少し離れた木陰に座っている。
礼拝堂から出る姿を見つけたルノーが、このところ急激に伸び始めた背をいっぱいに伸ばして、大きく手を振ってきた。
それに応えて、ユージィンがテレサの肩を抱き寄せる。
夕刻を告げる教会の鐘の音が、若い夫婦を祝福するかのように、高らかに響いた。
世界は喜びに満ちて。
あなたと歩む未来は、いつだって眩しい光にあふれている。
ユーテレです。ED後です(←見ればわかる)
前の「Gloria」を書いてる時に、記憶喪失状態のユージィンの心情とかもっと書きたいなぁ…と思ったら浮かんだネタです。うん、今書いてるやつと違うネタばっか浮かぶとか、ホントやめてよね…(死)
なので3月には全体のプロット書いてあったんですけど。その先からが時間かかる私の創作スタイル。
「Gloria」の時にはユージィンの生業とかは省略してましたが、かなりの優等生だったみたいなので、教師とか似合うんじゃないでしょーかね。
行儀の悪い生徒には、容赦なくチョークが飛びますよ! 殺られますよ!!
あと何か特技を生かした職業に就くとしたら、暗殺とか裏工作とか…。
真面目な話すると、器用貧乏タイプで何でもソコソコにこなしちゃうんじゃないかと思います。
ちなみにひさびさにがっつりKOKIAの楽曲聴きまくったら、「光をあつめて」って曲がイメージぴったりで。゜゜(´□`。)°゜。となりました…。
ユーテレはカノンとかKOKIAの歌が妄想かきたてられるんですよ!!
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