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ネオロマ中心はきちがえロマンスサイト。ラブΦサミットとか魔恋の六騎士の二次創作で更新中です☆

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Gloria

アンジェリーク 魔恋の六騎士(ユージィン×テレサ)














 


Gloria

 

「それでね、明日はみんなで、小屋の修理を手伝うんだ。そうしたらおばあさんがお礼に、タルトを焼いてくれるって…」
 眠たげなルノーの声が途切れて、テレサは縫い物の手を止めた。
 顔を上げて、かたわらのソファに目を向ける。案の定、ユージィンの膝に頭を乗せたルノーが、
穏やかな寝息を立てていた。
 以前のように、魔導で心身を消耗させることがなくなったせいだろうか。ルノーは見違えるほど
健康な体になっていた。たびたびの発熱に見舞われることもなく、毎日、元気に村の学校へ通っている。
 むしろ今日のように、年頃の少年らと郊外を駆け回り、遊び疲れて早々と眠ってしまうことの方
が多いくらいだった。
「眠いなら、もう寝室に行きなさい、ルノー」
 膝枕をしているユージィンの足は、ひどい骨折から癒えたばかりだ。
 ルノーの頭をのせたままで、負担になってしまわないか心配で、テレサはそう呼びかけた。
「ルノー、起きて…」
 反応がない弟にしびれを切らせて、揺り起こそうと身を乗り出すのを、ユージィンが軽く手を挙
げて遮った。
「…もう少し、このままでいさせてあげてください」
 小声でそう言うと、愛おしげにルノーの柔らかいくせ毛を撫でる。
 その優しい姿に、騎士団にいた頃の思い出が重なって、テレサの口元に自然と笑みが浮かんだ。
 今のユージィンには、過去の記憶の一切が失われている。崇拝していた主のことも、自分の半身
のように慈しんでいたルノーのことも―――テレサのことも、何も覚えていない。
 にもかかわらず、彼が自分たち姉弟に注ぐ献身と愛情は、以前とまったく変わることはなかった

「どうかしましたか?」
 テレサの物言いたげな視線に気づいて、ユージィンが顔を上げた。
「ううん、何でもないの」
 ユージィン自身は、過去を持たない曖昧な自分に動じている様子はなく、むしろ不思議なくらい
に平静でいる。故郷のノーグの村に連れて行き、ルノーの母親と共に4人で暮らし始めることも、すすんで受け入れていた。
 それでも…自分の知らない「自分」の話をされるのは、けして良い気持ちではないだろう。
 テレサは会話を終わらせようと、椅子から立ち上がり、厚手のショールを持ってきた。
 寝入ってしまったルノーの体にかけてやるのを、ゆったりとしたニットに身を包んだユージィン
が手伝いながら、そっと笑った。
「あなたが何を考えているのか、当ててみましょうか。…記憶をなくす前の私を、思い出したので
しょう?」
「―――どうしてわかったの?」
 思わず言ってしまってから、テレサはあっと小さく叫び、手で口元を覆った。
 この程度の隠し事もできない、単純な自分が恨めしい。
 けれども、ユージィンはむしろ嬉しそうな表情で、水色の瞳を細めた。 
「少し前から、あなたが私のことをとても幸せそうな目で見ることに、気づいていましたよ」
「嫌じゃ、ない?」
「いいえ」
 気遣うテレサの問いかけに、ユージィンははっきりとそう答えた。
 それから、立ったままの彼女の両腕を掴んで、その場に座るように促す。テレサが膝を折ると、
不安をかき消そうとするかのように、両手でその頬を優しく包み込んだ。
「たぶん、あなたが今の私とは違う、別の人間を思い出すのではなくて。私の中にある光を見いだ
してくれるような…そんな気がするから」
 あなたやルノーと過ごした、かけがえのない日々を忘れてしまっていても。
 本当の意味では、私たちは何も失っていない。
 ルノーを慈しみ、テレサを愛する自分が、変わることなく存在している。
「…あなたと出会えて、私は本当に幸せです。昔も、今も。それだけは、この身体が覚えています

 かみしめるようなユージィンの言葉に、テレサは潤んでしまった瞳を瞬かせた。
「ユージィンは、何も変わっていないよ。相変わらずルノーには甘くて、私にはちょっと皮肉屋で
…でも、やっぱり優しくて」
 いいえ。本当は、変わってしまった。
 消せない罪に人知れず苦しみ、狂気すらはらんでいた暗い翳りは、今の彼にはどこにも見えない

 ―――それでいいのだ。
 卑怯かもしれない。贖罪から逃げているのかもしれない。
 だけど、ユージィンが記憶を失ったことと、ルノーから魔導の力が消え去ったこと。それはけし
て偶然ではないのだ。
 神が…レヴィアスが起こした奇跡だと、テレサは信じていた。彼がルノーを返してくれて、ユー
ジィンの身を自分に委ねてくれたのだと…。
 その意志を、私は未来へ繋いでいこう。
 私はあなたの小さな灯となって、その足元を照らし続ける。
 いつまでも、いつまでも―――。
「記憶なんてどうでもいい。あなたが今、私のそばにいること。それだけが大切なの」
 頬に触れるユージィンの手に、自分の手のひらを重ねて、テレサは微笑んだ。
 胸の奥が、じんと熱くなる。わきあがる感情に押されてふるえる睫毛を、ユージィンの親指が優
しく撫でた。
「ん…」
「ルノー…起こしてしまいましたか?」
 ユージィンの膝がわずかに揺れて、その振動でルノーが目を覚ました。とろんとした瞳で、重た
そうに身体を起こす。
 テレサはあわてて、ユージィンの手を自分の頬から離した。
「もう少し、このままでも構いませんよ」
 臆する様子もなくそう言うユージィンに、ルノーはテレサをちらりと見てから、ゆっくりと首を
横に振った。
「ううん、もう寝室へ行くよ。お姉ちゃんが怖い顔してるから」
「なっ…!」
 たちまち、テレサの顔が朱に染まる。
 ルノーはソファから立ち上がると、大きく伸びをして、訳知り顔でテレサを指さした。
「早くユージィンと二人っきりになりたいって、そういう顔してるよ。おやすみなさい」
「ルノー!」
 足早に居間を出る弟を追いかけて、テレサが叫んだが、ルノーはもう自分の寝室に入った後だっ
た。
「まったく、大人をからかって…」
 しかめ面でつぶやいたテレサは、背後に人の気配を感じて振り向いた。
 ユージィンが居間の入り口で、吹き出しそうなのをこらえながら立っている。
「貴方がそんなに積極的な女性だとは、知りませんでした」
「ユージィンまで、もう!」
「冗談ですよ」
 テレサの剣幕に、降伏するかのように両手を上げて―――ふいに、ユージィンの水色の瞳がいた
ずらっぽく輝いた。
「あっ…」
 いつの間にか、ユージィンがすぐそばまで来ていた。ごくさりげない仕草で、彼女の背後の壁に
手をつく。
 あらがう余裕もなく、テレサは壁際へ追いつめられてしまった。
「…ルノーは勘違いをしていますね。二人きりになりたいと思っていたのは、私の方なんですから

 テレサの耳元で囁くと、彼女の赤毛を一房手に取り、香りを嗅ぎながら持て遊ぶ。
「綺麗な髪ですね。柔らかくて、とても良い香りがして…。私は、あなたにそう言いませんでした
か?」
「…そんなこと、初めて言われたよ」
 ぴったりと身体を寄せてくるユージィンにどぎまぎしながら、テレサはやっとの思いで答えた。
 するとユージィンは、不思議そうな表情を浮かべた。
「じゃあこれは? あなたの声は鈴のように愛らしくて、耳に心地よく響きます」
「ない…と思う」
「あなたのすべてが、愛しくてたまらない、と…これも、言ってはいませんでしたか?」
「ないよ」
 ユージィンの想いを、直接的な表現で言われたことはない。でも、そう思ってくれているという
ことは、ちゃんと知っていた。
 言葉なんて必要ないくらいに、私たちは満たされていたから―――。
「やれやれ。どうやら私という男は、救いがたい無骨者だったようですね」
 まったく情けない、とばかりに頭を振るユージィンがおかしくて、テレサはくすくすと笑った。
「それなら―――」
 男性と密着していることも忘れて、笑い続けるテレサのあごを、ユージィンの細く白い指が持ち
上げる。
 目が合った、と思った瞬間、唇が重なった。
「キスは、どちらが上手ですか?」
 額と額を擦り合わせながら、彼女を見下ろしたユージィンが低い声で囁いた。
「上手いとか下手とかはわからない、けど…」
「けど?」
「…もっとしてほしいって思う」
 頬を染めて、消え入りそうな声でテレサが言うと、ユージィンが感極まった吐息をついた。
 彼女の背中に手を伸ばし、自分の胸に強く引き寄せて、もう一度唇を重ねてくる。
 ユージィンの情熱をもっと深く受け入れたくて、テレサは彼の身体にしっかりとしがみついた。


 ―――記憶を失う前の彼と最後にキスしたのは、革命決行の日、皇帝の城でのこと。
 燃えさかる炎の中、駆り立てられるような激しい焦燥感にかられて交わしたキスも、焼けるよう
に熱かった。
 あの時の追いつめられた感情とは違う、優しいキス。
 それから、とろけるように甘い、恋人同士のキス。
 ひとつひとつに、違う思い出があって、違う切なさに胸がしめつけられる。
 ルノーはつらい体験を経て、少年から大人へ成長しようとしている。ユージィンも過去の呪縛か
ら解き放たれて、晴れ渡った青空みたいに笑うようになった。
 テレサは…自分で言うのも気恥ずかしいけど、体つきや仕草が、少しは女らしくなったと思う。
 騎士団の革命は、ついに果たし得なかった。
 けれども、多くの惑星で領主への反乱が起きていて、村にも不穏な情勢が伝わってくる。皇帝の
統治は末期を迎えていて、新しい政治形態が必要なのだと訴える学者もいた。
 季節は変わり、時はうつろい…。
 世界のすべてが、変わり続けている。

 
 永遠なんて、どこにもなくて。
 ―――ただ愛だけが、少しずつ形を変えながら、途切れることなく流れ続ける。

 

 

 

 


 

 

 

 

久しぶりの魔恋です。ユーテレです。
まともにED後の話を書くのって初めてなんですね、そういえば。
スチル絵からいろいろと妄想を発展させてみました。

何だこいつ、と思われるかもしれませんが、コレ書いてようやく「あのEDはアリだったんだなぁ…」としみじみ思ってます。
ユージィンはきっと、忘れることでしか前に進めなかったんだろうな、と。
でもね、まっさらな気持ちになってまた、レヴィアス様に出会ってほしいです。
大好きなテレサと可愛い弟のルノーと、尊敬するレヴィアス様の元で戦ってほしい。
…やっぱり虫が良すぎるかなぁ、そんな展開。

タイトルは魔恋のエンディングテーマを歌っている、カノンさんの歌から。
アニメ「エンジェル・ハート」のテーマソングとかになってるそーです。
主題がイマイチ掴めてませんが、別れの歌に聴こえるのに、明るく幸せそうな感じで好きな歌です。
英語バージョンもオススメ!

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無題

こんにちは~。遊びに来てみたらユーテレ小説があったので、興味深々に読ませていただきました。
そうですよね。ユージィンはこの形のENDの方が幸せかもね。
ユージィンのGOODENDは、ルノーも生存できたので私は良かった~と思ってます。
3人で仲良くいつまでも暮らして欲しいですよね。
それにしても、ユージィンは色っぽいな~
  • えむけい(MK) さん |
  • URL |
  • 2012/03/12 (11:04) |
  • Edit |
  • 返信

良かったですよね!

こんにちは! またまた来ていただいてありがとうございます(*^_^*)
ユージィン色っぽいですか? え、カマっぽいという意味で…(苦笑)

ユージィンEDでのルノーは、すごく大人びたというか、お姉ちゃんを支えるんだ!って気概を感じるのが嬉しいですvvv
イイ男に育っておくれよ~!!
BADではちょっと可愛そうですが、「ユージィンが帰ってくたら、おかえりって言ってあげるんだ」ってくだりが温かくて、妄想が膨らみます…!
  • しきぶ@管理人 さん |
  • 2012/03/12 (22:54) |
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