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ネオロマ中心はきちがえロマンスサイト。ラブΦサミットとか魔恋の六騎士の二次創作で更新中です☆

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闇のせつな

遙かなる時空の中で(頼久×あかね)




えっと、またまたまた(以下略)更新停滞してるので、昔の作品をひっぱり出す作戦します。
ちょうど誕生日が近いので、頼久さんで。
モバゲとはちょっとキャラが違うような気もするんですが、そもそものキャラとも違うんじゃないかとも思うんですが、
こーいう悶々としたシチュエーションとか好きだー!


ちなみにこの頃は創作に和歌を引用するのがマイブームでして。
本編にある和歌の引用は、「古今集」「伊勢物語」から。
在原業平が伊勢の斎宮とよろしくやってしまった後で、斎宮からもらった歌です。
業平の返歌は「かきくらす心の闇にまどひにき夢うつつとは世人さだめよ」
(闇に迷ってあんなコトをしちゃったよ。あれが夢かどうかは、別の人に聞いてくれる?)
ヒドイなソレ……




闇のせつな

 

 
君やこし我やゆきけむ思ほえず夢かうつつか寝てか覚めてか

 

「……頼久さん」

 几帳の奥で、少女が起き上がるかすかな気配がした。主の自分を呼ぶ声に、頼久は外へ向けていた視線を屋敷内へ移す。

「どうかなさいましたか?」
「あ、えっと、何でもないんですけど、目が覚めちゃって……。そちらへ行ってもいいですか?」

 拒絶する間もなく、几帳の切れ目から小さな影がひとつ、あらわれた。
 彼が主として仕える、神聖な神子としての力を秘めた少女、あかね。

「私の気配がお気にさわるのでしたら、外へひかえています。ですからどうぞ、もうお休みください。明日にさしつかえます」
「あ、いいえ、そんなことはないんです」

 壁をまさぐりつつ、どうにか頼久が背をあずけている廊下の柱までたどりつくと、あかねは小さくささやいた。

「ちゃんと寝ますから。少しだけ、ここにいさせてください」

 少女がかたわらに腰掛けると、ふわりと清々しい風が匂い立つように吹く。

「雨……まだ降ってるんですね」

 夕方から降り出した雨は、そのまま深夜になっても音もなく大地を濡らしている。そのため、いつもは庭先での警護を、濡れるからとあかねに懇願されて、廊下の端まで上がっていた。

「はい。明日は、雨の中での札探しになるかもしれませんね」
「うーん、それは嫌だけど……。仕方ないですよね、それが私の役目なんだもの」

 つぶやくと、あかねは自分の肩先をそっと見上げた。
 その視線の先には、彼女を守ることを自らの使命としている青年が居るはずだが、すべては夜の闇に包みこまれていて何も見えない。

「あの……頼久さん」

 急に不安がこみあげてきて、思わず呼びかけた。

「はい」
「そこにいますよね?」
「……?」

 かすかな黒い影がいぶかしがるように揺れた。

「あ、ごめんなさい、変なことを言って……。真っ暗で誰もいないみたいだったから、何だか怖くなってきて」

 あかねは彼の顔があるだろうと見当をつけた所へ両手をのばした。
 ほどよくひきしまった、ややざらついた手触り。しめった空気のなかで冷えた肌を暖めようと、あかねは触れた頬をそっと包みこんだ。
 ほのかにくゆらせてある香をさえぎり、焼けつく陽射しの気配がただよう。

(―――そうか)

 頼久は胸中で呟いた。
 この少女の瞳には、夜はまったくの闇の世界であるらしい。
 しかし訓練された頼久の目は、おぼろげながら彼女の姿をとらえていた。心細げに開かれた唇。眠りのなかで乱れた夜着からのぞく、白い手足―――。
 あかねがそれでも瞳をこらそうと顎を上げると、胸元の合わせ目がわずかにゆるむ。
 闇にまぎれてひどく無防備になっている少女から、彼はあわてて瞳をそらした。頬を包みこむ小さな手を上から握りしめ、渾身の思いでひきはがす。

「もうお止めください。そのようにたしかめずとも、頼久はここにおります」
「……はい。そうですよね」

 あかねが安心したように微笑む。
 そこには昼の光を通して見るよりもずっと大人びた、成熟した女性の色香と童女のあどけなさとが、きわどく混ざりあっていた。

「―――」

 夜の暗闇が彼をそんな衝動に駆り立てたのだろうか。
 気づくと頼久は少女の濡れた唇に、自分のそれを重ねようと首をかたむけていた。
 熱い吐息が顎にかかる。あかねが待ちわびるかのように、そっと唇を開いたように思えたのは―――彼の錯覚なのか。

 ふいに雨が強く降り出し、屋根をたたく音で頼久ははっと我に返った。
 あわてて顔を起こし、つかんだままの少女の手首をほどく。知らずに力がこもっていたのか、あかねは自由になった手首をさすりつつ俯いた。

「……申し訳ありません。痛かったですか?」
「いいえ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけです。……私、もう休みますね。お邪魔してごめんなさい」

 あかねはそう言って立ち上がると、柱をたよりに几帳の中へ戻るべく足を進めた。
 しかし暗闇に平行間隔も狂わされているのか、その足どりはおぼつかない。仕方なく頼久は彼女の手をとり、寝所までを導いた。

「雨の夜って大好きです、私」

 几帳をくぐり、つながれていた指先が離れる瞬間、あかねがぽつりとつぶやいた。

「……だって頼久さんが、いつもよりずっとそばにいてくれるから。明日から外じゃなくて、ここで警護していただけませんか? そのほうが―――うれしいです」
「それはできません」

 少女の願いを、頼久は冷淡につきはなした。

「あまりおそば近くにいては、侵入者に気づくのが遅れ、神子殿を巻き込むおそれがあります。あなたを危険な目にあわせるわけにはいきません」

 すぐに背を向けたので、頼久にはあかねがどんな表情をしたのかはわからなかった。
 廊下の柱へもたれかかったとき、几帳の奥から「……おやすみなさい」というかすかな声と、夜具をかける音が届いた。

 人の気配がすっかり消え、雨音だけが響く中で、頼久はようやく安堵のため息をついた。
 なぜ、あんなことをしようとしたのだろう。
 少女は頼久のしぐさに気づいてしまっただろうか。この夜が彼女にとって完全な暗闇であることを、願わずにはいられなかった。

 ―――知られてはいけない。
 かしずくべき女あるじに抱く、このような邪な想いなど。

(頼久さんがそばにいてくれたほうが、うれしいです)

 そのなにげないひとことに、目眩がするほどの幸福を感じていることなど。
 頼久はぎゅっと拳を握り、几帳へいざなうためにからめた細い指の感触をふりはらった。
 その指がさしのべられる先は自分ではなく、おそらくはずっと身分の高い公達の誰かがふさわしい。少女の気高い美しさとみずみずしい知性を、よりいっそう開かせることができるのは……。

 触れてはいけない花。
 求めることは許されない夢。

 ―――この雨があがったら、外へ出て、いつもどおり夜空の下での警護に戻ろう。これ以上この人のそばにいて、かなわぬ想いに身を焦がしてはいけない。

 彼のそんな想いをあざ笑うかのように、雨はいつまでも降り続いていた。



 
(───ゆうべのことは、あなたのほうからいらしたのでしょうか。それとも私のほうが訪ねていったのでしょうか。なんとも分別がつきません。あれは夢なのか、それとも現のことなのか。寝ている時のことなのか、覚めている間のことなのか───)
 

 

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