My sweet place

アンジェリーク　魔恋の六騎士（カイン×テレサ）

My sweet place
 

「ねえカイン、もう大丈夫だよ？」
　ソファに横たわったテレサが身を起こして、足元にいる青年に声をかける。
　カインはソファのふちに軽く腰を下ろし、ゆっくりと時間をかけて、彼女のふくらはぎを丁寧に揉みほぐしていた。
「いいや、まだむくみが残っている。大事な時期なのだから、遠慮することはない」
　そう言ってカインは鋼色の瞳でテレサを見つめ、優しく微笑んだ。
　彼女の姿を見て平静でいることなど、今のカインにはとてもできない。初めて想いを交わした時だって、どうしようもなく愛おしかったはずなのに。それ以上に、抑えきれない情熱が溢れ出してくる。
　視線を下ろしたカインの瞳に、彼女の腹部が映った。少女の頃と変わらない、ほっそりとした肢体に不釣り合いな、丸みを帯びたそこには―――彼の子供が宿っていた。
「腰はつらくないか？　よければ、クッションをもうひとつ持って来るが……」
「もう、本当に大丈夫だったら！」
　こらえきれなくなったテレサは、足でカインの手を振り払って飛び起きた。もちろん、産み月の近くなったお腹をかばいながら、だが。
　真綿に包まれるようにいたわられるのは慣れていないし、カインがそんな風に自分を扱うのも、彼らしくなくて落ち着かない。
　ただ―――いつだって冷静な彼が、テレサの妊娠がわかってからというもの、むさぼるように育児書を読みあさったり、つわりに苦しむテレサの隣で同じように顔をしかめたり。
　子供が生まれることを心から喜んでいるのが伝わってきて、それがたまらなく嬉しい。
「―――あ」
　テレサの激しい動き（カインの主観としては）に蒼白になったカインが、あわてて彼女に手を差し伸べる。しかし立ち上がったテレサはぴたりと動きを止め、自分の腹部に手をやった。
「今……赤ちゃんが、お腹を蹴った」
　初めての体験に感動しながら、ふるえる声でつぶやく。
「本当か？」
「きっと、過保護なお父さんに呆れてるのよ。―――ねえ、カインも赤ちゃんを感じてみたい？」
「君さえよければ、もちろん」
　熱のこもった声でカインが応じると、テレサは彼をうながして再びソファに腰かけた。緊張でかすかにこわばる腕を取り、そっと自分の腹部へと導く。
　まるで、カインの手のひらが触れるのを待っていたかのように、小さな命が布地ごしに彼の指を蹴るのがわかった。
　言いようのない感動が胸に湧き上がって、カインは息をのんだ。
（ここに……）
　彼女の胎内に、自分の血を分けた命がある。
この手に抱くことができる日も、そう遠くはないのだ。その事実がこれまで以上に鮮明に感じられて、目がくらみそうな程の喜びがカインをおそった。
「男の子と女の子、どっちだと思う？」
「……女の子じゃないかな」
「どうして？」
　断定的なカインの言葉を不思議に思ったテレサが、彼の顔を覗きこむ。
　熱くなった頬に風をあてようと頭を振って、カインは照れ笑いを浮かべた。
「本当はどちらでもいいんだ。元気に生まれてきてくれれば、それで十分だから。ただ……女の子だったら、小さい頃の君を見ているような気持ちになれるだろうな、と思って」
「だったら私も、カインによく似た男の子がほしいな」
「男の子が生まれたら、君に懐きすぎて大変だと思うが……」
「自分がそうだったから？」
「そうじゃない。―――私の血を引いていて、君を愛さないはずがないから、だ」
　茶化して言い返したはずのテレサの頬が、さっと薔薇色に染まった。カインは彼女の肩を優しく抱くと、覆いかぶさるように素早いキスをした。
　その唇が首筋から胸元へ、身体の曲線をなぞるようにして、ゆっくりと下の方へ降りていく。
「……カイン？」
　テレサがかすれる声で呼びかけながら、腹部へとたどりついたカインの頭にそっと手を置いた。
「もっと近くで、この子を感じたいんだ」
　本当に待ち遠しくてたまらない。早く、この腕で抱きしめてやりたい。
　私の子供。私の分身。
　愛する妻と生命を分けあった、かけがえない宝物。
　―――大地母神、という信仰がある。母なる海、という言葉がある。
　人は出会いと別れを繰り返し、時に傷つけ、傷ついて。そうして魂は再び、女性の胎内へと還っていくのだ。傷を洗い流し、愛に包まれて、もう一度健やかな心で生きるために。
（おかえり）
　もうひとりの私。
　今度は愛を見失うことなく、どうか真っ直ぐに生きて―――。
　柔らかな膨らみに祝福のキスをすると、つられて笑い出したかのように、テレサの胎内で小さな命がその身を震わせた。












 

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えっと、お久しぶりです。本っ当にお久しぶりですみません……（汗）
ついったの診断で「キスのお題２２箇所」というのをカイテレでやってみたら、
「カイテレが冗談交じりに腹に回帰のキスをするところを描き(書き)ます」と出まして。

……ホントに書いてみた＼(^o^)／

前半は一気に書けたんですが、もともと衝動で書いたモンなので、締めがうまくいかなくて。
短いわりに時間かかってしまいましたよもう…
しかも冗談交じりとか、微妙にお題はずしちゃってますね。

何気にちゃんと終わらせたのでは、はじめてのカイテレです。
好きなんだけど、カップリング萌えがなかなか難しい。真面目な人だからさ。

このところちょっと書く意欲がなくて困ってたんですが、お題のおかげでリハビリできました。
変に気合いれすぎないで、もうちょっとさらっと書く努力をしないとなぁ。
あとは表現力とか語彙とか……