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ネオロマ中心はきちがえロマンスサイト。ラブΦサミットとか魔恋の六騎士の二次創作で更新中です☆

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剣と花

アンジェリーク 魔恋の六騎士(カーフェイ×テレサ)







………………………あれ?










剣と花



 ルノーが踵をいっぱいに上げて、重厚な造りの本棚に手を伸ばす。
 一番上の棚にはどうにか手が触れたが、目当ての本にはとても届かず、とうとう指がふるえ出した。
 こらえきれなくて、腕を下ろそうとした時―――横から浅黒い手がすっと伸びて、本を抜き取った。
「目当ての本は、これか?」
「あ…ありがとう、カーフェイ」
「成長期だからな。2冊目はまだ無理としても、3冊目を読む頃には、自分で取れるくらいに背も伸びてるだろう。頑張れよ」
「うん!」
 本を受け取りながら、ルノーが満面の笑顔で頷いた。
 窓際のソファに腰を下ろし、ユージィンから進められたという、神話をモチーフにした戯曲のページを開く。
 テレサはそんな弟の様子を、温かい、微笑ましい気持ちで眺めていた。
「…娘、何をよそ見しているのですか」
 キーファーの苛立った声に、はっと我にかえる。
「このアルミス製の最高級の絨毯に、紅茶などこぼしてみなさい。即刻、騎士団から追い出しますよ」
 カップに紅茶を注ごうとしたところで、テレサはぼうっとよそ見をしてしまっていた。
「ご、ごめんなさい!」
 あわてて謝ると、ティーポットから紅茶を注いで、それをカーフェイに手渡した。
「どうぞ、カーフェイ」
「ああ、すまんな」
 本棚の前に立つカーフェイが、ソーサーからカップだけを受け取った。夕焼けのような赤い瞳は、手の中の本に向けられたままだ。紅茶を一息に飲み干し、片手に持った本のページを器用に親指だけでめくる。
 その無骨な男性らしい手に、テレサは思わず見とれてしまった。
「…何を読んでいるの?」
 読書の邪魔をしてはいけないと思いつつ、そっとたずねてみる。
 カーフェイは気にする様子もなく、本から顔を上げた。
「これか? フェイレイの歴史書だ。こんなものは故郷では見たこともなかったが…なかなか興味深いな」
 そう言いながら本を少しだけ傾けて、彼女にも中身が見えるようにしてくれる。途端に、ぎっしりと詰まった活字の群れが視界に飛び込んできた。
「はは、お前には難しすぎるかな」
 目をぱちぱちさせるテレサに、カーフェイは笑いながらカップを渡した。
 少しだけ、意外な気持ちだった。レジスタンス活動に身を投じていては、まともに勉強する機会もなかっただろうに―――。
「…カーフェイ。その本でしたら自室へ持ち帰って、読んでいただいてもかまいませんよ」
 肘掛け椅子に座るキーファーが、そう声をかけてきた。
 ルノーが不思議そうな声を上げる。
「え…でも、キーファーの部屋にある本はとても貴重だから、持ち出したらいけないんじゃなかったの?」
 貴族らしく文化への造詣も深いキーファーは、蔵書にもそのこだわりを見せている。彼の部屋以外でそれらを読むのは許されないということは、テレサも知っていた。
「その本はかなり古いもので、簡単には手に入りませんが…稀覯本、というほどの価値はありませんので」
 そっけない口調で、キーファーがルノーの疑問に答える。
「だったら、図書室に置いてもいいんじゃないの? 歴史書なら、カインも喜んで読むだろうし…」
 今度はテレサが疑問を投げかける。すると彼は、白皙の美貌に何とも楽しげな、しかし見る者を絶句させるような、冷たい微笑を浮かべた。
「そうですね、そのうちに」
 ―――その表情を見れば、カインに嫌がらせをしているのだとは容易に想像がつく。
「それじゃあ、お言葉に甘えるとするか」
「ええ、どうぞ。ただし、私に断りもなく他の者に読ませたりはしないでいただきたいですね」
 カーフェイが苦笑しながら、わかったというように手をひらひらさせて、扉に向かった。
 テレサはどうしようかと迷ったが、このままいてもキーファーに感情を爆発させ、後で気まずい思いをするだけだと悟った。もうすぐユージィンが用事をすませて、ここにやって来る。それまでルノーはきっと、部屋の主の気分を害することなく、物語の世界に浸っているだろう。
「ルノー、ユージィンが来たら、お茶を入れてあげてね」
「はーい!」
 弟が返事をしたのを確かめてから、テレサは部屋を出た。
「キーファーったら、本当に性格が悪い…」
 部屋からある程度離れたところで、耐えかねたようにぽつりとつぶやく。
「まあ、あの男が他人に親切にしている姿なぞ、かえって気味が悪いが、な」
 テレサはためしに、参謀二人がにこやかに語らう場面を想像してみた。しかしあまりに似つかわしくない光景で、たまりかねて吹き出してしまった。
 隣を歩く長身の青年を見上げると、瞳の中にいかにも楽しげな光が揺れているのがわかった。きっと彼も、同じような想像をしているのだろう。
「…そうだ、カーフェイ。さっきはありがとう」
「…?」
 意味を問うように軽く首をかしげる青年に、ルノーのこと、と言い添える。うなずいたカーフェイは、細い顎に指を置いて、先ほどルノーに見せていた温もりのこもった笑みを浮かべた。
「ルノーは堅実で努力家だ。天才的なショナの影にいて目立たないのが、どうも可哀想だが…いずれ立派な騎士団長になるだろう。その時が楽しみだな」
「本当に?そう言ってもらえて、私も嬉しい!」
 カーフェイは騎士団長の中で、カインとキーファーに次ぐ年長者だ。戦士としても優秀な彼に評価してもらえるのは、とても誇らしいことだった。
 それに―――知り合ってまだ日も浅いが、ルノーのことをよく見てくれている。特別に親しくしているという訳でもなく、いつも他の騎士団長の一歩後ろで、寡黙にたたずんでいるのに…。
 テレサはふと、彼のことをもっと知りたいという気持ちになった。
「カーフェイは、子供が好きなの?」
「好きというのとは、少し違うな。―――俺の故郷は貧しい者ばかりで、子供の生存率が低い。子供を大切にするのは、当たり前のことだ」
 カーフェイの瞳が、遥か遠くを見つめるように細められた。
「もっとも、どうにか生き延びても…学校なんてたいしたものはないし、まともな働き口もない。金持ちの召使いにでも雇われればましな方だが、それでもボロボロになるまでこき使われるのが関の山だ。支配する側は、支配される者の気持ちなんてお構いなしだからな」
 彼もまたそのように育ったのだということは、険しくなった表情でわかった。
 つらい子供時代だったに違いない。テレサが育った環境もけして裕福ではなかったが、それでも村は平和に満ち足りていて、ちゃんと学校にも行かせてもらえた。
 戦争なんて、遠い世界の出来事で…。
「娘は、早いうちに結婚する。お前くらいの年頃なら、もう誰かの花嫁になっていてもおかしくないな」
 テレサの顔が曇ったのを感じ取ったのか、カーフェイは話題を変えた。
「そうなの? 私はまだ考えられないな、結婚なんて」
 彼の意図を察して、テレサもつとめて明るく答える。
 とはいえ、習慣の違いに驚いたのは本当だ。生活に余裕がなかったということもあるが、彼女はどちらかといえば奥手で、異性に恋をした経験もない。
 たとえば目の前にいる青年に感じるような、胸をときめかせる経験なんて―――。
「…カーフェイは、私をお嫁さんにしてくれる?」
 その言葉の持つ意味を考えるよりも先に、口が勝手に動いていた。
「カーフェイの故郷では、私は結婚してもおかしくない年齢なんでしょう。だったらカーフェイは、私をお嫁さんとして見てくれる?」
 微笑みながら詰め寄ると、彼が明らかにたじろぐのがわかった。見上げた浅黒い顔が、驚きに満ちている。当然の反応だ。
 テレサ自身も、どうしてこんなことを言ってしまったのか、当惑していた。
 カーフェイが思いがけず気安く接してくれて、とても嬉しかった。鋭いまなざしの下の気さくな人柄を知ることができて、二人の距離が近づいたと―――そう、うぬぼれてしまったのかもしれない。
「…ねえ?」
 重ねて問いかける自分の声に、かすかな媚びが含まれていることに、テレサは気づいていない。
 カーフェイはそんな彼女から眩しそうに目をそらすと、参ったな、と口の中でつぶやき、観念したように頭を振った。
「そうだな。考えてみてもいい」
 夕陽を思わせる赤い瞳が、ふいに炎の如く揺らめいた。
「だが…お前にはまだ、こういうのは早すぎるんじゃないか?」
 少しうわずった、低い声音でそう言った途端、カーフェイが彼女の方へ身を乗り出してきた。
 引き締まった胸元が目の前にぐっと近づき、息をのんだテレサは思わず後ずさる。だが、カーフェイには彼女を逃がすつもりなどないようだった。
 テレサを壁際に追いつめ、頭上からのしかかるように見下ろす。まるでしなやかに獲物を捕らえる、肉食獣のような動きだ。
 いつの間にか後ろに回された手が、触れるか触れないかのかすかなタッチで、テレサの腰を撫でた。
「……!」
 ぴくん、と背中をそらせた彼女の瞳に、カーフェイのひどく真剣な表情が映った。その顔が、ゆっくりと頭上から降りて来る。
 鼻先に熱っぽい息がかかり、テレサは本能的に、ぎゅっと瞼を閉じた―――。
「…ほらな」
 どこか遠くから声が聞こえてきて、不思議に思ったテレサは、おずおずと目を開いた。
 彼の体はもう離れていて、赤子をなだめるような優しい瞳でこちらを見ている。
 ―――からかわれたんだ。
 そう気づいた瞬間、テレサの頬は真っ赤に染まった。
「あんまり男をからかうもんじゃない。相手が俺だったからいいものの…」
 カーフェイの唇が赤く、わずかに濡れている。その唇が接近して、自分にしようとしていたこと…そうされると想像していたことが脳裏をよぎり、テレサはあわてて彼から目をそらした。
「ここの連中は、以外に女慣れしていない奴が多い。きれいな娘にそんなことを言われたら、勘違いする男もたくさんいるんだぞ。気をつけることだな」
 そう言って大きな手のひらで、恥ずかしさのあまり顔を上げられないでいるテレサの頭を、ぽんと軽く叩いた。
 くるりと踵を返し、律動的な足取りで立ち去って行く。
 カーフェイの広い背中が廊下の角へ消えると、どうにか堪えていた体が力を失い、へなへなとその場に崩れ落ちた。
 心臓が飛び出しそうなくらいに早鐘を打っている。それを静めようとするかのように、ぎゅっと強く自分の肩を抱きしめた。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 ついさっきまで、彼は同じ騎士団の仲間の一人だった。他の騎士団長たちに抱く尊敬や親しさと、変わらない気持ちで接していたはずなのに。
 ほんの数秒で…彼の存在が、テレサの小さな心を埋め尽くしてしまった。
(カーフェイは、どうなんだろう?)
 きれいな娘、と言ってくれたのは、単なるおせじだろうか。それとも、彼のごく個人的な気持ちから出たのだろうか。
 わからない。ただひとつ、テレサにはわかっていることがある。自分はカーフェイ以外の男性に、あんなことを言ったりはしない。その理由を、彼はわかってくれるのだろうか…。
 子供のように軽くあしらわれてしまったことを思い出して、テレサは絶望的な思いで天井を見上げた。

 

(…少し、深入りしすぎたかな)
 あてもなく歩き、テラスから外へ出たカーフェイは、涼しい風を受けながら考えていた。
 どうしてあんなことをしてしまったのだろう。
 大人をからかうなと、しかめ面でひとこと言えば済むはずだった。彼女に恥ずかしい思いをさせる必要はなかったのに。
 ―――いや、そうじゃない。
 あの時カーフェイは、テレサに魅了されていた。自分よりずっと年下の、庇護欲すら感じそうな少女に。
 彼女に本気でキスするつもりなのだと気づいた瞬間の、いたたまれなさと言ったら…。
 衝動を断ち切るために噛んだ唇が、まだズキズキと痛む。自分にあれだけの自制心があったことに、奇跡すら感じていた。
 頬をかすめる風が、わずかに湿り気を帯びている。雨になるのかもしれない。
(私をお嫁さんにしてくれる?)
 乾いた大地に雨水が染み込むように、涼やかなテレサの声が胸の中に響く。
 若い娘の、邪気のない戯言だ。わかっているはずなのに、あの甘えるような声音が、いつまでも頭から離れない。
(駄目だ)
 ふいに脳裏に浮かんだ幸福な光景を、意志の力で振り払った。
 触れてはいけない。
 自分は戦うことしか知らない、剥き身の刃だ。抱きしめようとしても、テレサという花を傷つけるだけ。
 だから、愛してはいけない。
 想いは鞘におさめて、永遠に秘めたままで―――。

 足元の花壇に目を向けると、手入れのされていない土の上に、一輪だけ慎ましく咲いている花があった。
 彼に花の名前などわかるはずもないが、瑞々しいピンク色の、小さな花。
 カーフェイはその前にひざまづくと、けして触れようとはせず、いつまでも愛らしい姿を見つめ続けていた。




 

 

 


 







カーフェイ×テレサです。
はい、「次はカイン×テレサだ!」と張り切っていたくせに、張り切りすぎて行き詰まりました。
ちょっとリロードしよう、ということになりまして…。
攻略対象じゃないけど、問題ありませんよね?(ドキドキ)

バレバレだと思いますが、冒頭は公式ブログにあったイラストから派生してます。
見た瞬間、優しそうなカーフェイにノックアウトされましたYO!!
その後イラスト思い出してたらふと文章が浮かんで、さてここからどうラブラブに持っていこうかと妄想してたら…。

どうしてこういう展開を選んだ、私の脳内。
(リズ先生風に)

でもこーいうラブ直前の話を書くの、好きなんですよね。
両想いなのにすれ違ってるとか、あと一歩で裏行きとか…(←)

それにしても、カーフェイルート欲しいですね!
もちろんウォルタールートも!!

「騎士団は俺に戦う場所を与えてくれた。そしてテレサは、安らぎと愛を与えてくれた。ふたつのかけがえない宝を守るために、俺は命をかけよう」

…って言って決死の覚悟でマクシミリアス暗殺してくるカーフェイください\(^o^)/

EDスチルは二人で健康茶飲んでる姿で!

ウォルターもそのうち書きたいです。いや書く。
 

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