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ひだまり

遙かなる時空の中で(泰明×あかね)

 

更新ネタがない時は昔の作品を晒してしまえー、ということで、今さらな遙か1です。
書いたの10年くらい前ですよ…。
今もですが、当時ハマっていた時代小説の影響をモロに受けてます。









 


ひだまり


 
「………それは、何だ?」
 水干の袖を胸の前で合わせ、「それ」を抱きかかえている神子。
 部屋へ入った途端に飛びこんできた風景の意味を理解できずに、陰陽師の青年が問いかけた。
「何って、赤ちゃんですよ」
「見ればわかる」
 そっけなく言って少女に近寄りながら、泰明は心の中でひそかになるほど、とうなずいた。
(これが赤子というものか)
 市中を歩いて視界の隅に入ったことはあるだろうが、こうして間近に見るのははじめてだ。
 家族も恋人も、友人すらほとんどいない(八葉である仲間をそう呼んだら、の話だが)彼に、赤ん坊を見る機会などないに等しい。
 板間の中央に立つあかねの腕の中で、それはひどく無心な瞳を天井へ向けていた。
「藤姫付の女房の赤ちゃんなんです。挨拶でこちらにいらしたんですけど、ほら、今日は何か大事なお客様があるとかで、忙しいでしょう? 手伝っている間、私が預かったんです」
「そういえば本殿の方が騒がしかったな」
 藤姫がそばに控えていないのも、そのためらしい。
「えっと、今日は一緒に出かけてくださるんですよね?」
「ああ」
「それじゃあ、少し待っていてくれますか? あちらはお客様が来れば、もう事は足りるそうですから、それまでは面倒を見てあげたいんです。ね?」
 すがるように首をかしげる少女の愛らしさを、彼が拒めるわけがない。
 泰明が黙ってうなずくと、満開の桜がぱぁっと散るように微笑んだ。
(………桜?)
 何の気なしに浮かんだ、自分には似つかわしくない詩的な表現に、彼は少しだけ困惑を感じた。
 それをまぎらわそうと、赤ん坊の姿をまじまじと観察する。
 小さな顔、小さな手。
 包まれている産着に負けないくらいの白い肌に、まばらな黒髪が揺れている。
「生まれて半年だそうです。男の子ですよ」
 言われて赤ん坊の顔を覗きこんだが、そのあどけない眼差しに男女の別を判断することはできなかった。
 かがみこんだ拍子にその顔先へ彼の首飾りが流れ、ぷっくりと肥えた手が先端の羽飾りをつかんだ。
「あ………」
 あかねが気づいて取り上げようとするのを、軽く手を上げて制する。
「構わない。好きにさせてやれ」
「いけませんよ、食べちゃいます!」
「食べる?」
 なるほど少女の言う通り、赤ん坊は嬉々としてそれを大きく開いた口元へ持っていこうとしていた。
 あわてて彼は一歩下がり、その小さな手から羽飾りを引きはがす。
「なぜこんなものを食べようとする………?」
「そういう、何でも口に入れたがる年頃なんです! あーあ、羽飾りがよだれでびしょびしょじゃないですか」
 器用に左腕だけで赤ん坊を抱え直し、あかねが懐紙を取り出して羽をぬぐった。
 その細い指が時おり胸に当たり、何となく落ち着かない気分だった。
「―――男の人って、本当にこういうことには疎いんだから!」
「神子は、赤子の扱いが上手いな」
「一応、これでも女ですから。親戚の子とか、近所の子とかの面倒を見ることもあるし」
「しかし、このような言葉も発しないか細い生き物を、よく世話できるものだ」
 誉め言葉のつもりだったが、それを聞いた少女の眉はきっとつり上がってしまった。
「何を言ってるんですか。泰明さんにだって、こんな小さな頃があったんですよ。それを別の生き物のように言うなんて!」
「―――私には、ない」
 ひとかけらも感情もこめずに、冷たく言い放つ。
「確かに人であれば、誰もが赤子の姿で生まれてくるものだ。しかし作りものの私は違う。はじめからこの姿で、言葉も知識も持って生まれた」
 少女がはっと顔色を変え、気まずそうに瞳をそらした。
 自分という存在がどんなものであるのかを、彼女には言っておいてあるはずだったが、おそらく失念していたのだろう。
 この白けた空気には慣れていたし、何の痛みも感じなかった。
 それは疑いようのない事実なのだから。
「向こうの部屋で控えている。支度ができたら呼べ」
「………待ってください!」
 気をきかせてこの場を離れようと背を向けた彼を、あかねが呼び止める。
 ふりかえったその胸元に、白い産着姿の赤ん坊をつきつけられた。
「泰明さんも、抱いてあげて」
「何を言っている? 私には無理だ。そんなことをしたら―――」
 壊れる、と本能的に発した言葉をたたみかけるように、少女がもう一度強く言う。
「大丈夫です。もう首も座っているし、赤ちゃんってこう見えて、けっこう頑丈なんですよ。はい」
 彼のかたわらにかけより、肩先を触れ合わせながら強引に懐へ手渡され、泰明は思わず赤ん坊を受け取ってしまった。
(―――重い)
 数値で言えば片手で振りまわせるほどの軽さであるはずなのに、腕にかかる重力はずっしりと重かった。
 その腕から微妙な緊張感が伝わったのだろうか、静かに身をまかせていた赤ん坊が、もぞもぞと動きはじめた。
「―――!」
「落ち着いて」
 うろたえてあとずさりしようとする背中を、あかねの手がしっかりと支えた。
「体を揺さぶってあげるんです。こう、舟に揺られているみたいに………」
「こうか?」
「そうじゃなくて、泰明さんも一緒に。赤ちゃん一人だけで揺られていると、安心感がなくっておびえるんですよ。………そう。そんな風に」
 少女の言う通り肩先から自分の体ごと揺らしてあやすと、それまで不快そうに顔をしかめていた顔が、またたく間に緩む。
 泰明は無意識に安堵の吐息をついた。
 それに気づいた少女がいたずらっぽく笑い、なおもぎこちなく肩を揺らす彼を見上げた。
「ね、平気でしょう?」
 言いながら少しかがんで、赤ん坊のまだ薄い髪にそっと触れる。
「―――赤ちゃんって何もわからないと思われがちだけど、意外と周囲のことを理解しているそうですよ。嫌な人に、こんな風に人見知りせずに抱かれたりはしないんですって」
 再びあかねが彼の色違いの瞳を覗きこんだ。
「この子はちゃんとわかっていますよ。泰明さんが優しい人なんだってことを。私もそう信じてます」
「………」
「だから―――自分のことを作りものだとか、道具扱いしないで下さい。そうやって自分をないがしろにする泰明さんを見ているのは、私………」
 その先は溢れ出す涙に邪魔されて、続かなかった。
 うつむいて顔を覆う少女に、泰明は何か言わなければと言葉を探した。
 が、この感情豊かな少女を納得させられるだけの文句は、浮かんでこない。
 それ以前に、彼にはなぜ赤ん坊をあやすことが優しさの証明になるのか、どうしても理解できなかった。
 このように無様に赤ん坊を抱く自分の姿を、なぜ彼女が優しいと表現するのか。
「………ごめんなさい、取り乱したりして」
 慰めるよりも早く、あかねが平静を取り戻して、潤んだ瞳を水干の袖でぬぐった。
「ちょっと台所へ行って、顔を洗ってきます。その子のオムツとか、預かっていないし」
 涙はすぐに治まったものの、感情の高ぶりはまだ続いているのだろう。
 かすれた声で言って部屋を出るまで、彼女は一度も泰明の顔を見なかった。
 ―――何を言えば良かったのか。
 少女の消えた部屋は急に色彩をなくし、うららかな春の朝だというのに、冷々とした空気がたちこめるような心地さえ感じられた。
 漠然とした不安が胸にこみ上げる。
 ぼんやりと立ちすくんでいると、まどろみかけた赤ん坊が突然泣き始めた。
「坊主、泣くな」
 つい口に出してしまってから、言葉の通じる相手ではないことに気づいて、軽く舌打ちした。
 こんな姿を師匠である安倍晴明に見られたら、何と言われることか。
(腹をかかえて笑うだろうな)
 しかし憮然と思考をめぐらしている余裕はない。
 火がついたように声を上げて泣きつづける赤ん坊を抱え直し、泰明は少女に教えられたとおりに体を揺すった。
 そうしてしばらくの間、赤ん坊の気を落ち着かせることに専念していると、やがて泣き声が弱くなり、かすかにしゃくり上げる音と、目元の涙の伝った跡だけが残った。
(赤子とは小さな体で、ずいぶんとうるさく泣くものなのだな)
 ふと思いついて、彼は赤ん坊のふっくらとした頬を、指先でつついてみた。
 柔らかい。
 自分の頬にも触れてみたが、そのそっけない硬さとは比べようのない、みずみずしい弾力に満ちていた。
 人の肌とはこれほどにも、はちきれんばかりの生命力に溢れているものなのだろうか?
 たとえば―――神子のように。
「泰明さんが優しい人だって、信じています」
 少女が嗚咽に耐えながら告げた言葉が、ふいに脳裏に鳴り響いた。
 それは違うと否定すべきなのに、そんな言葉を自分には受ける資格はないと言うべきなのに、彼にはできなかった。
 澄んだ楽の音色にも似た少女のささやきを思い出すだけで、胸の奥に、何か熱い力のようなものが湧き上がってくる気さえする。
 ―――人ではない存在が、人であることを願い、それを叶えることはできるのだろうか。
 こんな風に、指先までいっぱいに未来への希望をつめこんでまどろむ、赤ん坊と同等の存在になることは。
(ありえない)
 それでもほんの一時であれば、こうして夢を見るのも悪くはないと思った。
 たとえば厳しい冬もやがて終わり、暖かな春が訪れるように。
 このこだわりの感情も、いつかは日だまりに溶けて消えていくのかもしれない。
 めぐり来る春とともに出会った、柔らかな日差しの化身とも見まごう少女は、彼にとってそんな想像の余地すら与えてくれる存在になっていた。
「………お前はたしか、生まれて半年になると言っていたな」
 新緑の葉のような小さな手に触れると、思いがけない力強さで握り返された。
「私は作られて2年だ」
 その力強さは、さっき濡れた羽飾りをぬぐってくれた、あかねの指のしなやかさに似ていた。
「人の一生は50年というが、それに比べたらほんのわずかな時間だ。その短い時間のなかで、神子という尊い存在にめぐり合えたことは、お前にとっても、私にとっても得がたい幸運といえるだろうな―――」
 その口元に浮かぶ微笑の意味を、彼はまだ知らない。
 どこか遠くの空で、鳥が甲高く鳴いた。

 


 「ごめんなさい泰明さん! ついみなさんと話しこんじゃって………」
 ぱたぱたと渡殿を駆けてきたあかねは、自分の部屋を覗きこんであわてて口を閉ざした。
 奥の柱にもたれて座り、その膝の上に乗せている赤ん坊と共に、泰明が眠っている。
 しのび足でそっと近づくと、薄く瞳を閉じる顔を見下ろした。
(わあ、睫毛が長い………)
 整ったその顔立ちは、たしかに人間離れした美しさだけど。
 こうして無防備に眠っている姿は、間違いなく人として生きているのだと実感できた。
(別に泣く必要なんて、なかったのよね)
 彼の腕の優しさは、あかねが一番良く知っているのだから。
 その寝顔がひどく幼く、まるで生まれたての赤ん坊のようにも思えて、彼女はくすりと笑った。
 すでに陽は高く昇り、強い日差しが部屋の奥までも照らしている。
 他の八葉たちは、今日の同行はないと判断し、それぞれの予定をこなしている時間だろう。
(仕方ない。今日は泰明さんと二人で出かけようかな)
 あかねは彼と赤ん坊が目覚めるのを待つことにした。
 そっと隣に腰かけて、肩先を突きあわせて柱にもたれかかる。
 泰明の手がぴくりと動き、赤ん坊のお腹のあたりを撫でると、その感触に安心したかのようにまた力が抜けていった。
 それは彼女が今まで見た中で、一番暖かい光景だった。
 

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